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高松高等裁判所 昭和41年(行コ)8号 判決 1971年12月13日

一審原告

戸祭忠男

外三名

代理人

阿河準一

外三名

一審被告

四国財務局長

鈴木常雄

代理人

片山邦宏

外三名

主文

原判決中、一審原告戸祭、同上川、同香川に関する部分を取消す。

一審被告が昭和三七年一一月一〇日右原告三名に対してなした、国家公務員法八二条にもとづく、各免職処分を取消す。

一審被告の本件控訴を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも全部、一審被告の負担とする。

事実

<証略>

第二 当事者双方の主張

一  一審原告等の請求の原因

(一)  一審原告等の地位、身分

全財務労働組合(以下単に全財組合と称する)は、全国十財務局の職員をもつて組織する法人たる労働組合であり、一審原告戸祭はその四国地区本部(以下単に四国地本と称する)執行委員長、同原告上川は同本部高松支部(以下単に高松支部と称する)書記長、同原告香川は高松支部副支部長、同原告平尾は高松支部執行委員である。

なお、昭和三七年一一月一〇日の本件処分時には、同原告戸祭は四国財務局理財部主計課に、同原告上川は同局管財部総括課に、同原告香川は同局理財部融資課に、同原告平尾は同局管財部管財課に所属し、それぞれ調査主任(戸祭)及び大蔵事務官(上川、香川、平尾)として勤務していた。

(二)  本件処分とその内容

一審被告は昭和三七年一一月一〇日、一審原告戸祭、同上川、同香川、同平尾の四名に対し、当時施行の国家公務員法八二条を根拠に、懲戒免職処分(以下単に本件処分と称する)を通告してきた。

而してその処分の理由とするところは、つぎのとおりである。

(A) 一審原告戸祭関係

(1) 昭和三七年一〇月三日、午前一〇時三〇分頃より午前一一時三〇分頃までの間、同局食堂において、勤務評定の適正な実施を妨害する目的のもとに、高松支部が主催した第一次評定者の会合にみだりに参加し、職務を放棄した。

(2) 昭和三七年一〇月五日、同局局長室において、午前一〇時三〇分頃より午前一一時三〇分頃までの間に行なわれた同局局長と、香川県公務員共闘会議(以下単に共闘と称する)役員との会見に、みだりに職務を放棄して参加し、かつ、同日午前一一時三〇分頃、同局局長が外出しようとした時、同局庁舎内において、それまで会談していた同共闘役員等と共同して、同局局長をしつように追いかけ、とり囲み、その前方に立ちふさがり、その外出を妨害した。

(3) 昭和三七年一〇月五日午後三時頃、みだりに職務を放棄し、同日午前中の同局局長と同共闘役員との会談およびその後の状況について、執務中の職員に対し、同局総務課長の中止要求に応ずることなく、携帯拡声器により、放送を行ない、職員の勤務を妨害した。

(4) 昭和三七年一〇月八日、同局局長の業務命令により同日午後五時までに、勤務状況報告書を第一次評定者が第二次評定者に提出することになつていたのを、同日午後四時頃から午後五時頃までの間、みだりに職務を放棄して、組合側に提出するよう第一次評定者をあおり、そそのかした。

(5) 昭和三七年一〇月九日午前一〇時頃、同局階上事務室において、沼田中央執行委員長(以下単に沼田委員長と称する)が前日勤務状況報告書を組合に保管した経過について執務中の職員に経過報告を行なつた際、勤務時間中であるため、同局総務課長の制止があつたにもかかわらず、沼田委員長に同行し、職務を放棄した。

(6) 昭和三七年一〇月九日同局階下事務室において、午後〇時三〇分頃より午後一時二七分頃までの間、勤務時間にくい込む職場集会に積極的に参加した。

(7) 昭和三七年一〇月一〇日午後二時頃から午後二時三〇分頃までの間、みだりに職務を放棄し、同局総務課長に勤務評定反対闘争(以下単に勤評反対闘争と称する)の結果措置等について抗議、要求を行ない、同課長の勤務を妨害した。

(8) 昭和三七年一〇月一〇日午後四時三〇分頃から午後五時頃までの間、みだりに職務を放棄し、同局総務課長に非行調査に組合員を立会わすよう抗議、要求を行ない、同課長の勤務を妨害した。

(9) 昭和三七年一〇月一二日午後三時頃から午後四時三〇分頃までの間、みだりに職務を放棄し、同局総務課長に集会不許可、離席問題等について抗議を行ない、同課長の勤務を妨害した。

(B) 一審原告上川関係

(1) 昭和三七年一〇月二日午後四時五分頃、みだりに職務を放棄し、同局階上、階下事務室において、携帯拡声器で第一次評定者に対し、勤務状況報告書を記入しないことを要請する趣旨の放送を行ない、執務中の職員の勤務を妨害した。

(2) 昭和三七年一〇月三日午前一〇時三〇分頃より午前一一時三〇分頃までの間、みだりに職務を放棄し、同局食堂において、勤務評定の適正な実施を妨害する目的のもとに、高松支部が主催した第一次評定者の会合に参加し、第一次評定者に対し、勤務状況報告書の提出を延伸するようあおり、そそのかした。

(3) 昭和三七年一〇月八日午後三時三〇分頃みだりに職務を放棄し、高松支部が同支部組合事務所において主催した執行委員会に参加し、同局局長の業務命令で定まつていた第一次評定者の提出期限を延伸し、右報告書を組合が保管することの共同謀議に参画して、同委員会終了後、同日午後五時頃まで、この実行に加担した。

(4) 昭和三七年一〇月九日同局階下事務室において、午後〇時三〇分頃より午後一時二七分頃までの間、勤務時間にくい込む職場集会に積極的に参加した。

(5) 昭和三七年一〇月一〇日午後二時頃から午後二時三〇分頃までの間、みだりに職務を放棄し、同局総務課長に勤評反対闘争の結果、措置等について抗議、要求を行ない、同課長の勤務を妨害した。

(6) 昭和三七年一〇月一〇日午後四時三〇分頃から午後五時頃までの間、みだりに職務を放棄し、同局総務課長に非行調査に組合員を立会わすよう抗議、要求を行ない、同課長の勤務を妨害した。

(7) 昭和三七年一〇月一二日午後三時頃から午後四時三〇分頃までの間、みだりに職務を放棄し、同局総務課長に集会不許可、離席問題等について抗議を行ない、同課長の勤務を妨害した。

(C) 一審原告香川関係

(1) 昭和三七年一〇月三日午前一〇時三〇分頃より午前一一時三〇分頃までの間、同局食堂において、勤務評定の適正な実施を妨害する目的のもとに、高松支部が主催した第一次評定者の会合にみだりに参加し、職務を放棄した。

(2) 昭和三七年一〇月五日、同局局長室において、午前一〇時三〇分頃より午前一一時三〇分頃までの間に行なわれた、同局局長と前記共闘役員との会見にみだりに職務を放棄して参加した。

(3) 昭和三七年一〇月五日午後一時三〇分頃みだりに職務を放棄し、同局経理課事務室において、同局経理課長に対し勤務状況報告書の提出を一日でもおくらせる組合方針に従うよう要請した。

(4) 昭和三七年一〇月八日午後三時三〇分頃みだりに職務を放棄し、高松支部が同支部組合事務所において主催した執行委員会に参加し、同局局長の業務命令で定まつていた第一次評定者の提出期限を延伸し、右報告書を組合が保管することの共同謀議に参画して、同委員会終了後、同日午後五時頃までこの実行に加担した。

(5) 昭和三七年一〇月九日同局階下事務室において、午後〇時三〇分頃より午後一時二七分頃までの間、勤務時間にくい込む職場集会に積極的に参加した。

(6) 昭和三七年一〇月一〇日午後二時頃から午後二時三〇分頃までの間、みだりに職務を放棄し、同局総務課長に勤評反対闘争の結果措置等について抗議、要求を行ない、同課長の勤務を妨害した。

(7) 昭和三七年一〇月一〇日午後四時三〇分頃から午後五時頃までの間、みだりに職務を放棄し、同局総務課長に非行調査に組合員を立会わすよう抗議、要求を行ない、同課長の勤務を妨害した。

(8) 昭和三七年一〇月一二日午後三時頃から午後四時三〇分頃までの間、みだりに職務を放棄し、同局総務課長に集会不許可、離席問題等について抗議を行ない、同課長の勤務を妨害した。

(D) 一審原告平尾関係

(1) 昭和三七年一〇月三日午前一〇時三〇分頃より午前一一時三〇分頃までの間、同局食堂において、勤務評定の適正な実施を妨害する目的のもとに、高松支部が主催した第一次評定者の会合にみだりに参加し、職務を放棄した。

(2) 昭和三七年一〇月八日午後三時三〇分頃みだりに職務を放棄し、高松支部が同支部組合事務所において主催した執行委員会に参加し、同局局長の業務命令で定まつていた第一次評定者の提出期限を延伸し、右報告書を組合が保管することの共同謀議に参画して、同委員会終了後、同日午後五時頃まで、この実行に加担した。

(3) 昭和三七年一〇月九日同局階下事務室において、午後〇時三〇分頃より午後一時二七分頃までの間、勤務時間にくい込む職場集会に積極的に参加した。

(4) 昭和三七年一〇月一〇日午後二時頃から午後二時三〇分頃までの間、みだりに職務を放棄し、同局総務課長に勤評反対闘争の結果措置等について抗議、要求を行ない、同課長の勤務を妨害した。

(5) 昭和三七年一〇月一〇日午後四時三〇分頃から午後五時頃までの間、みだりに職務を放棄し、同局総務課長に非行調査に組合員を立会わすよう抗議、要求を行ない、同課長の勤務を妨害した。

(6) 昭和三七年一〇月一二日午後〇時一〇分頃、同局内庭において香川県公務員共闘会議が開催しようとした無許可の抗議集会に、高松支部組合員が参加するよう再度にわたり携帯拡声器で呼びかけた。

(7) 昭和三七年一〇月一二日午後三時頃から午後四時三〇分頃までの間、みだりに職務を放棄し、同局総務課長に集会不許可、離席問題等について抗議を行ない、同課長の勤務を妨害した。

<中略>

(三)  取消事由

1 事実誤認

(2) 本件勤評反対闘争の経過

③ 全財組合の組織並びに昭和三七年度勤評反対闘争方針

(イ) 全財組合の組織

全財組合は昭和二九年、単一組織としして全国の財務局に勤務する約六〇〇〇の職員をもつて結成された職員団体である。そして、これまで機構改革や職場の民主化などのたたかいを組織して、その成果をあげてきたところであるが、その組織の構成は、全国七八に及ぶ支部と中央本部に区別され、その運営を円滑に行なうために、中間機関として各財務当局毎に地区本部あるいは地区協議会をおいている。そしてその決議機関に大会、中央委員会、執行機関として中央執行委員会があたることとなつている。

全財組合の執行機関である中央執行委員会は、規約綱領並びに大会決定の方針に従つて業務を執行し、その場合、地本並びに支部の各級機関に文書を発し、各種の行動を提起し、目的達成を図つているが、そのうち中央執行委員長の任務は、この中央執行委員会の議長をつとめ、組織を代表することとなつていて、結成以来一年(三三年度)を除いては沼田委員長が長年にわたり、その任にあたつている。そして右文書は中央執行委員長名で発せられるが、その文書を通常拘束力の差異によつて、一応、指令、指示、通常文書にわけ、文書はそれぞれの専門部の名称を冠し、全財組第何号、あるいは全財総第何号と表示されている(甲第七号証全財組第三号「勤評闘争のとりくみ方」という文書も、あとで述べるように、大会決定に基づいて中央本部が委員長名で発した通常文書である)。

ここで組織の統制面についていえば、ホワイトカラーという組合員の体質と国公法のオープンショップ制度の法律的な取扱いによつて、組織運営を強い統制力でもつて行なうことは難く、最も拘束力の強い指令の場合でも実施できないときは理由を付して、中央執行委員長に予め承認を求めるという方法によつて、各地域の力量と条件を考慮するなど、極めて柔軟な指導を行ない、これまで統制処分に付したことは一度もないが、現在の官公労働者の組織形態としては、真に止むを得ない現状である。

要するに、全財組合は単一組織の形態と機能を果すため、中央執行委員会はその執行機関として大会などの決議機関にその責めを負い、その執行は委員長名によつて発せられる各種の文書に従い、各級機関はその目的達成のために活動が進められ、その実践に際し、指導のために投入されるオルグもより明確にその方針の滲透をはかり具体化を推進するのが当然の任務であり、それが原則であり、仮りに各地の現状がその要請に即応すべき体制にない場合にのみ、その現地の事情を勘案し、その力量と条件を加味して、本部の承認を得て、行動の一部を変更することもあり得るのである。

そして、本件のように組合の代表権と指令権をもつ中央執行委員長が、現地指導のためオルグとして派遣される場合、中央執行委員長はオルグの権能と同時に指令権を有する中央執行委員長としての権能を有し、原則として大会で決定した方針の範囲内で、例外的には突発的な事態に対し合理的止むを得ない範囲において、その指令、指示を発し、現地執行部並びに組合員に行動を命ずることは当然のことであり、現地の執行部もその指示に従う義務があるのである。

以上の次第であつて、後述の本件勤評反対闘争、とくに用紙保管については昭和三七年一二月一六、一七日開催の第一〇回臨時大会においても沼田中央執行委員長のとつた措置は、右に該当する真に止む得ない措置として承認されて承認されており、統制違反、山猫争議等の問題は全く生じなかつたものである<後略>

理由

第一当事者間に争いのない事実

一審原告等の地位、身分が同原告等主張のとおりであり、一審被告が昭和三七年一一月一〇日一審原告等に対し、当時施行の国公法八二条の規定に基づき、一審原告等主張のとおりの処分事由により、免職処分を通告したことは当事者間に争いがない。

第二本件勤評反対闘争の経過について

(一)①  勤務評定制度

当時施行の国公法及び人事院規則一〇―二によれば、勤務評定は、人事の公正な基礎の一つとするために職員の執務について行なわれるものであり(同規則一条)、所轄庁の長は、その所管に属する職員について、勤務評定の実施に関する規程を定め、これに基づいて勤務評定を実施し、その評定の結果に応じて、所要の措置を講じなければならないことを義務づけられている(同法七二条、同規則四条)。

その所轄の長の定める規程は、人事院の承認がない限り、次の如き右人事院規則の規定によるべきものとされている(同規則四条二項)。

(い) この勤務評定は、職員が割り当てられた職務と責任を遂行した実績(勤務実績)を当該官職の職務遂行の基準に照らして評定し、並びに執務に関連して見られた職員の性格、能力及び適性を公正に示すものであること(同規則二条)

(ろ) またその方法は、職員の勤務実績を分析的に評価して記録し、又は具体的に記述し、これに基づいて綜合的に評価するものであり、かつ、評定の公正を確保するうえから、二以上の者による評価を含む等、特定の者の専断を防ぐ手段を具備するものであること(同規則二条)

(は) 評定の総括的な結果は、三以上の段階に区分された評語をもつて報告書に記載するものとし、しかして、上位の段階の評語を決定される職員の数は、同一時期に評定された職員数のおおむね十分の三以内になるようにしなければならないこと(同規則一五条)

(に) 各職員の勤務評定の結果は公開しないこと(同規則一七条)

また所轄庁の長が勤務評定の結果に応じた措置を講ずるに当つては、勤務成績の良好な職員については、これを優遇して職員の志気をたかめるように努め、勤務成績の不良な職員については、執務上の指導、研修の実施及び職務の割当の変更等を行ない、又は配置換その他適当と認める措置を講ずるように努めなければならないのである。(同規則五条)

②  四国財務局における勤務評定

<証拠>によれば、大蔵省では、昭和二七年度以来国公法及び前記人事院規則に基づいて勤務評定を実施しているが、その規程については前記人事院規則の各規定の範囲内で順次改正を加え、現在では昭和三三年一〇月一日制定の大蔵省本省勤務評定実施規則(大蔵省訓令特第一一号)に基づいてこれを行なつている。従つて財務局においては、この規則に基づき、財務局長が実施権者となつて、毎年一回、大蔵大臣が定める時期(同規則六条)に勤務評定(定期評定)を実施することとなつている。

ところで、右規則によれば、次のとおりに定められている。即ち、

(い) 勤務実績の評定は、役付職員については、責任感、判断力、企画力、統率力及び知識の五評定要素、一般職員については、責任感、知識、仕事の結果及び勤勉さの四評定要素に分析して評価し、具体的に記述を行ない、これに基づいて綜合的評価を決定し、あわせて、執務に関連して見られた人物、能力、適性、家庭事情、健康状態等を記載することとなつており、(同規則一一条、別表第二A、B表)

(ろ) これらの評価は、その公正を確保するうえから、係員については係長、課長、部長が、また係長については課長、部長、局長がそれぞれ三次にわたつて評定を行なうことにより、適正なる結果を保障する措置が講じられている。(同規則九条、別表第一)

(は) 次に、評定の結果は、各評定要素につきa(優良である)、b(普通である)、c(良くない)の三段階の評語を付し、これらを綜合的に評価して、A・B・Cの三段階の総括評語を決定する方法がとられている。(同規則一一条、別表第二A・B表)のである。

(に) 従つて大蔵省管下の四国財務局における勤務評定は、職員個々の実情に則した適正な人事管理を行なうための公正な基礎資料の一つとするために、法令、規則をもつて定められた制度であり、一審被告・局長はこれを実施すべき法律上の義務があるのである。

(二)(1)  全財組合の勤務評定に対する態度

① 全財組合は勤務評定制度の実施以来常にこれに反対して来た。その理由とすることころを要約すれば、

(い) 勤務評定は、職階制と職階給制度に結びつき昇任、昇格の根拠となり、特別昇給、勤勉手当に影響を与え、国家公務員の低賃金傾向を助長するものである。

(ろ) 勤務評定には、客観的な判断基準がなく、非科学的である。

(は) その結果として、いたずらに職員間に競争心をあおりたて、労働強化をもたらすものであり、一面においては管理体制を強化し、組合役員等活動者を差別し、ひいては労働組合の団結を侵害するものである。

というにあることは、<証拠>に徴して明らかである。

しかしながら、組織的に多数の人間を使用する者にとつて、業務の能率化をはかり、組織の働きを高度に保つことは、本来当然の要求というべきであり、この要求を実現するためには、多数の被用者を有効、適切に活用する何らかの人事管理の方策をとる必要があることもことさらいうを待たないことである。そこで使用者が管理者に被用者の能力並びに平素の勤務成績を判定させ、これに応じてその配置、処遇その他の人事管理の措置を行なうのは当然のことというべきである。而して、近時ますます組織の拡大と機構の分化が進むにつれ、この判定を適正に行なうために、管理者の恣意的な要素の介入する余地を少くし、それを可及的に全体的、綜合的、客観的なものとすることが問題とされ、その方策として、判定の方法、手段を制度的に運営することが要請されるに至るのである。かような要請に基づいて、その目的にそうものとして、右勤務評定制度が法定、実施せられるに至つたものである。従つて勤務評定は、本来業務の能率的運営のために、適正な人事管理の公正な基礎資料の一つを得るために行なわれるものであり、その本来の目的において、合理的な制度というべきである。而してあらゆる制度において、その本来果たすべき機能のほかに、他の副次的ないしは附随的な作用が伴なうことがあるのは、通常免れないところというべきであるから、これらの作用が、本来の機能をある程度阻害する等その他の副次的効果をもたらすことがあるとしても、その本来の所期する機能の面において効用が十分と認められ、しかもその副次的作用等に対し相応の対策が考慮されている限り、その制度を直ちに一概に、合理性のないものとして非難、排斥することは許されないものというべきである。一審原告等は、国家公務員の低賃金をいうが、しかし国家公務員の賃金水準は、中立的専門機関である人事院の勧告によつて一応妥当な額を確保する途が法律上で制度化されているし(もしその勧告が実際上十分な実効をあげていないものとすれば、その制度、あるいは運用等に対し、直接非難ないしは改善要求等を向けるのが当面とるべき措置というべきである。)、もともと勤務評定自体は、一般的な賃金水準とはかかわりがなく、その水準の高低とは無関係に実施され得るものであるから、右理由に基づく勤務評定の非難は妥当なものといえない。また現行の評定手段、方法は、評定する者、評定の対象事項等の点からみて、必ずしも難点がないとはいえず、とうてい完全なものとはいえないかもしれないが、これに対しては、前認定のとおり、人事院規則上、出来る限り全体的、綜合的及び客観的な評定が得られるよう種々の配慮が加えられ、大蔵省実施規則も、その線にそい、数次の改善が重ねられて来たものであることが弁論の全趣旨に徴してうかがえるところであつて、さしあたり、これに優る代替的方策が他にあるとも考えられない現段階では、さような欠点のみをみて直ちに、現行の勤務評定を全く客観的な判断基準がなく、非科学的なものとして、たやすく全面的に排斥することは正当な態度とはいえない。更に、勤務評定が本来被用者、(職員)の能力の判定を直接の目的とするものである以上、その判定の結果として、優劣の区別が生じ、ひいてはそれが人事管理の面である程度の差別的取扱いをもたらすことは、もともと制度の建前からみて当然のことであり、従つてその際、その判定が絶対的なものでなく、あくまで相対的なものにとどまることも、またその判定結果が、段階的評価の形で職員の区別を行なうに至ることも、もとより、正規の評定を行なう以上、当初から予定されたところというべきである。さような取扱いが、結果的には職員間にある程度の競争心を生じさせ、ひいては労働強化等をもたらす作用を及ぼすものであるとしても、元来職員には全力を挙げて職務の遂行に当るべき義務がある(国公法九六条)のであるから、それは必ずしも勤務評定制度自体から直接に発生した結果であると一概にはいい切れないし、仮りにある程度は、この制度に関係があるとしても、その程度は、特段の事情がない限り、制度本来の機能に伴なう止むを得ない副次的作用として受忍すべき範囲のものというほかはない。なお、以上の点に関し一審原告等は、いわゆる十分の三Aの原則の第一次評定者の段階での適用等、現実の実施面での非合理性を主張するのであるが、しかし十分の三Aの原則は、もともと統計学上の原則であつて、それ自体を合理性がないものとはいえないし、その適用も本来は、最終評定者の段階における調整措置の基準であることが規定上明らかであつて(人規一〇―二、一五条)、この建前に立つ限り、実施権者が、具体的な調整実施に当り、適正妥当な評定結果を得るため、仮りに第一次評定者に対して、右原則に従い評定を行なうべきことを指示する等の事実があつたとしても、それは、あくまでも最終評定のための単なる参考意見の提示を求める趣旨にとどまるものとみるのが相当であり、具体的状況のもとで客観的に不可能と認められる場合にまでも、右原則の適用を強いる指示と解すべきものではないので、この点の主張は失当である。更に、右勤務評定制度自体或いはその実施が、直ちに管理体制を強化し、組合役員等活動者を差別し、ひいては団結権を侵害するものである旨の主張については、この主張にそう<証拠>があるが、これらはたやすく採用できないし、他にこの主張事実を認めるに足る証拠がない。

而して全財組合の勤務評定に対する態度は、一審原告等の主張自体並びに<証拠>に徴すれば、具体的な反対闘争の方針は別として、基本的、終局的には、単に現行の評定手段、方法等につきその欠陥を指摘してこれにつき是正を求める程度のものではなくて、右制度そのものを否定し、その撤廃を求めようとするものであることが明らかであり、これに反する証拠はない。ところで一審被告は、全財組合が、右勤務評定制度の否定から更に進んで、職階制等国家公務員給与制度を含む国家公務員制度全体を否定する態度である旨を主張するのであるが、かかる事実を確認するに足る証拠はない。

② なお、一審原告等は、全財組合としては勤務評定に反対する特殊事情がある旨主張するので検討する。

(い) 一審原告等のいう「給与のアンバランス」とは、人事院細則九―八―二の等級別資格基準表に定められた昇格に必要な経験年数及び在級年数を充たしていても、給与法八条に定める等級別定数の制限によつて昇格し得ない場合のあること、右細則の経験年数換算制度により、学卒後採用されるまでの経験年数が、初任級の決定に際し、そのままの年数で号俸決定の基礎とされない場合のあること、及び上級制限の制度により、上位等級の初号俸に相当する号俸以下の号俸にしか決定されない場合のあることに伴ない、学卒後直ちに採用された職員に比し不利となつていることなどを指すものの如くである。

しかしながら、さような事態は、一審被告主張のとおり、給与号俸を人事院規則の定める基準に従つて決定するときは、常に当然に生じる問題であり、しかもそれはあらゆる官庁に勤務する国家公務員全体に共通する問題であつて、ひとり財務局職員にのみ特有の現象ではない。一審原告等提出の「賃金アンバランス集計表」の数字は、一審原告等の主張に徴しても、等級別定数や上級制限に関する前記の法、規則等を無視し、経験年数と在職年数を充してさえおれば、すべての職員が一律に昇給し、また民間等の経験年数を有する者の初任級決定に当り学卒後直ちに採用された職員と同一に取扱うべきものとして算出した号俸と、現実の号俸とを比較した場合の数字に過ぎないものとであり<証拠判断省略>、右法、規則に基づいて適法に算出されたものではないので、財務局職員が不当、違法な取扱いを受けている事実の証拠としては、採用できないものというべきである。

しかし<証拠>によれば、一審原告等のいう「アンバランス」の状況にある相当数の職員がいることが認められるのであるが、この「アンバランス」是正のために特別昇給源資を使用せよとの全財組合の要求は、右源資が、一般職の職員の給与に関する法律(昭和二五年法律第九五号)八条、人事院規則一〇―二の五条、一五条、同規則九―八の一六条ないし一八条、同細則九―八―二の二〇条等に基づく勤務成績の良好な職員に対する優遇措置の源資であることからすれば、一応その本来の趣旨にそわない運用を要求するものであると認められるので、その限りでは、原則として正当なものとはいえない。(ただし、後記(三)、(2)、②、(い)、(ロ)の項参照。)

(ろ) 組織の細分化、職務内容の異質性等の点に関する主張については、四国財務局では、第一次評定の段階において、被評定者の数が二名以下という部署があることは当事者間に争いがない。しかし前記①の項で述べたとおり、第一次評定者に対する十分の三Aの原則の適用の指示は、絶対的な要求とまで解すべきものではないから、この点の主張は採用できない。

③  これを要するに、前記説示のように、勤務評定制度自体は否定すべきものといえないのであるが、現行の実施方法等の点については完全性を期待することが困難であるし、その結果としていたずらに職員間に、一審原告等主張のように、反目感情や、労働強化等をもたらす虞れがないともいえないのであるから、一審原告等の組合側が、その弊害を強調して、その制度の採用或いは実施方法等につき検討、考慮を要求すること自体は、これが勤務条件に関連する事柄である以上、もとより一概にこれを不当なものとはいえない。しかしすでに勤務評定が、議会の承認等適法な手続を経て実施に移され、制度化されている段階において、定められた法規に従い実施義務を負う当局に対し、関係法規に明らかに反して、その制度の撤回ないし運用方を、組合活動の方法によつて、直接に要求し、その実現をはかろうとする態度は、一般にたやすく正当なものとはいえない。

(2)  全財組合の組織と昭和三七年度勤務評定に対する反対闘争の方針等

① 全財組合の組織

<証拠>を綜合すれば、全財組合の組織及びその実体は一審原告等主張(請求の原因(三)、1、(2)、③(イ))のとおりであることが認められ、これに反する証拠がない。

② 勤務評定の実施につき一審被告のとつた措置

<証拠>を綜合すれば、

昭和三七年度における勤務評定は、同年九月二二日付秘第二一四八号大蔵大臣官房長依命通達により、評定時期を同三七年一〇月一日とし、評定は一〇月一五日までに完了の時期を厳守することが指示されたこと、このため四国財務局においては、九月二八日付決裁文書をもつて管内財務部長及び財務局出張所長あてに勤務評定の実施を指示するとともに、一〇月一日本局部課長等幹部職員を局長室に集め、勤務評定は大蔵省本省勤務評定実施規則により公正に実施し、所定期日までに確実に提出するよう指示して、勤務状況報告書をこれら部課長に手交したこと、

その際、前年度迄の勤務評定においては、必ずしも提出期限が遵守されたとはいえない実情にあつたので、特にこの勤務状況報告書の上部欄外右肩に、第一次評定者は一〇月八日までに、第二次評定者は一〇月一一日までに右報告書を提出するよう記載し、局長名の文書命令の形式をとつて、勤務評定の円滑適正な実施を期したこと、なお右の措置は全財務局の総務課長会議での申し合わせに基づいて他の財務局においても一様に採用されたところであつて、ひとり四国財務局における一審被告のみが行なつたものではないこと、而して、この命令書は、同日各課長を通じて第一次評定者である係長等に交付されたが、課長は交付に当り、「今回の勤務評定は業務命令になつているから」と説明し、「昭和三七年一〇月八日」の期限を厳守するよう特に注意したことが認められ、この認定を左右するに足る証拠はない。

③ 全財組合の昭和三七年度勤評反対闘争方針

<証拠>を綜合すれば次の事実が認められる。

(い) 勤評反対闘争は全財組合が昭和三三年の第五回大会において労働強化と差別をもち込み、職員間に反目競争意識をあおるものとして勤務評定制度に反対の態度を決め、その戦術として記入拒否、提出拒否を決定して闘争を組織して以来、毎年勤務評定実施の際には必ず闘争が組織されて来た。そして逐年その闘争戦術も、闘いの批判と反省のうえにたつて若干ずつ変更されたが、本件の昭和三七年度においても前年度とは若干戦術が変更された。即ち、昭和三六年度勤評反対闘争方針は、公開、均一オールA、一斉提出であつたが、この方針は勤務評定の当面の当事者である第一次評定者のみに戦術行使の負担がかかり、闘いが全組合員のものにならないこと、闘争の負担が第一次評定者のみにいちじるしく集中する結果、第一次評定者の中には勤評反対闘争を重荷と感じて当局からの圧力に苦慮する者があること等に鑑み、昭和三七年度においては戦術を転換して「一定期間の記入拒否、提出拒否」としたものである。

(ろ) 而して全財組合の昭和三七年度勤務評定に対する反対闘争の戦術は、中央委員長名をもつて各地本委員長、地協議長、支部長にあてて発せられた全財組第三号によれば、

「基本的に絶対反対の態度でたたかいを進めていきます。」

「当面は、動作を“職場で無力化していく”ことに力点をおく。」

「対官交渉、抗議行動を軸とした“提出拒否”“記入拒否”戦術を採用します。」「今年度は、一昨年“昨年の“オールA公開”から“記入拒否”提出拒否”に戦術した。」

「勤務状況報告書の提出時期は中央本部の責任において決定しますが、その場合(一〇月一〇日ごろ)は全国一斉職場大会を開催し、同時に提出します。なおその時点においては、オールA公開を推進し、それが困難の場合は最低遅れ号俸のある組合員を優先的に評定するようにします。」

と明記されている。

そこで全財組合の四国地本では、右の中央方針に基づいて、闘いの目標を「職場で勤評を骨抜きにし、人事管理、特昇の資料として使用させない。」ことに置き、闘いの進め方としては、「局長交渉、抗議行動を軸とする“記入拒否”、“提出拒否”戦術をとる。」こととしたのである。

この点に関して一審原告等は、右の「対官交渉を軸とした一定期間の記入拒否、提出拒否」とは、文字どおり「記入拒否、提出拒否」を意味するものではなく、官の指定した提出期日までに記入提出を差しひかえさせて、この間に対官交渉を行ない、出来るだけ組合の要求するところを官に承認させ、おそくとも官の指定した提出期日には一せいに提出する予定であつたのであつて、官の指定した提出期日になつても「記入拒否」「提出拒否」をする意図は毛頭なかつた旨主張する。

しかしながら、右の戦術を昭和三六年度のそれと比較すれば、「基本的に勤務評定絶対反対」の立場で「勤評を職場で無力化し、骨抜きにする」ために「オールA・公開を推進」しようという根本的な方針においては、昭和三七年度も同三六年度と全く変りがなく、ただ同三六年度には直接第一次評定者に対してオールA・公開の評定を行なうよう要請したため、全組織的闘争としては、同じ組合員である第一次評定者に過重な負担をかけ、それを官側に押しやるとの難点があつたので、同三七年度では、組合において先ず対官交渉を行ない、官に対してオールA・公開等の組合の要求を承認させる措置をとつた上で、第一次評定者に記入、提出を行なわせることとしたに過ぎないのである。ところで、全財組合としては、昭和三六年度の四国財務局における反対闘争は、官の指定した提出期日経過後までも局長交渉を行ない、局長に組合の要求項目を承認させ、大いに成果をあげたと考えていたのである。(もつとも一審被告側の評価では、当時の長谷局長が組合の要求項目を承認したものとは認めていない。)そこで昭和三七年度の戦術は、右の如き同三六年度の四国財務局における闘争の経過並びにその評価をふまえて、同年度の戦術を部分的に修正した性格のものであるとみるのが相当である。してみると、この新戦術は、同三六年度の四国財務局における闘争と同様に、各財務局において対官交渉を行ない、その間オールA・公開等の組合の要求項目を局長に承認さすか、或いはこれに近い組合が満足できるある程度の交渉結果(遅れ号俸の組合員の優先的評定等)を得るまでは、第一次評定者に勤務状況報告書の記入、提出を差しひかえさせ、場合によつては官の指定した提出期日経過後にわたつても、その局長交渉を継続し、中央本部が各局の交渉成果を見定めた上で、全国一せいに勤務状況報告書を提出させようというものであつたことが推認できる。従つて、前記「中央本部の責任において決定する提出時期」が官の指定した提出期日を予定し、これと一致させる意図であつた旨の主張はとうてい採用できないものというべきである。この点に関し、<証拠>によつて認められる、局長が前記第一次評定者に対して指定した提出期日の当日午前中、四国財務局において、組合役員が、第一次評定者に対し、報告書を提出できるように準備しておいてくれと連絡を行なつている事実は、後記のとおり、当日午前一〇時頃から待望の局長との団体交渉が行なわれる運びとなつたので、その際の交渉の模様によつては、即日提出の事態もあり得ることに備えて、その準備のため行なわれた連絡と認められるのであつて、必ずしも右認定の妨げとなるものではなく、<証拠判断省略>

なお、<証拠>によると、大蔵省の岸本地方課長等が昭和三七年度の勤務評定に関し、組合側に対し、最終の一〇月一五日の期限さえ守つて貰えば、第一次評定の期日などはさほど問題でない、また文書命令といつても取扱上格別従前と差はない等の発言をしているというのであるが、仮りにそうだとしても、これは右係官等が、本省の立場での見解を示しただけのこととみるべきで、各財務局自体における勤務評定の実施権者は<証拠>に徴し、あくまでも同局長であるから、同局長が自らの責任において指定した前記第一次評定の期日等がその意思に反して、無視ないしは軽視されてよい筈はない。

(三)  四国財務局における全財組合の昭和三七年度勤評反対闘争の推進と一審被告の態度

<証拠>を綜合すると、次の事実が認定できる。即ち

(1)  四国財務局における全財組合の昭和三七年度勤評反対闘争の推進

全財組合四国地本及び高松支部では、前記全財組合の勤評反対闘争方針をうけ、その一環として、勤評反対、勤務状況報告書(勤評書)の記入、提出拒否、オールA・公開等の勤評反対闘争を行なう方針を取りきめ、

(い) 高松支部では昭和三七年九月二七日、大巾賃上げ、勤評反対総けつ起のための職場集会を開き、勤評反対の署名運動及び反対闘争終了まで「勤評反対」のリボン戦術を行なうこととし、

(ろ) 翌二八日、右四国地本と支部役員数名が前田総務課長を通じて、局長に対して、勤務評定に関する団体交渉の申入れを行ない、局長が、その翌二九日午前一〇時から一時間位、右地本、支部各別の交渉ならば応ずる旨回答したところ、組合側は右地本、支部合同による局長との交渉(合同交渉)を固執して止まず、しかも右合同交渉の要求については、その間申出内容の細部に多少の変化はあつたが、一〇月一日から同月五日までの間数回にわたりその申出がくり返されたこと、しかし局長側がこれに応じないまま、交渉拒否というべき事態が続いて来た。

(2)  四国財務局長の団体交渉拒否の当否

一審原告等は、四国財務局における勤評反対闘争が後記のような経過をたどつた最も根本的な原因は、当時の同局近藤局長の違法な合同交渉拒否の態度にある旨主張するので検討する。

①  先ず、国家公務員の対官交渉権について検討する。

国家公務員も憲法二八条にいう「勤労者」であるから、その職員団体の交渉権も右法条に基づくものというべきであつて、単なる折衝権と解すべきものではなく、憲法の労働基本権保障の趣旨からみて、この交渉権は、可能な限り尊重されるべきものである。しかし、国家公務員の勤務関係の内容は、一般労働者の場合と異り、国民の意思の現れである法律(それに基づく規則等)によつて規律されているのであつて、政府といえども、公務員の勤務条件につき、その独自の権限により決定ないし変更を行なうことはできないのであるから、右交渉権中には政府当局との間に拘束的効力のある協約を締結する権限は含まれない(当時施行の国公法九八条二項)し、更にその交渉手続についても、法令の規定がある以上、右交渉権の行使はその規定に従つて行なわれるべきである。また交渉内容については、法令によつて勤務関係に関し定められた制度の廃止、変更はもとより明らかに法令の趣旨に反する制度の運用等を行政当局に対して直ちに要請する内容の交渉は、行政当局の権限ないし管理、処分能力を越える事項の要請であつて、原則として正当な交渉権の行使とはいえないものというべきである。

而して右交渉権については、右国公法九八条二項中に「職員はこれらの組織(組合その他の団体すなわち職員団体)を通じて、代表者を自ら選んでこれを指名し、勤務条件に関し、及びその他……違法な目的のため、人事院の定める手続に従い、当局と交渉することができる」と規定され、この規定に基づいて、その交渉手続につき人事院規則一四―〇が定められているが、その規則には、

(い)  交渉は、職員の団体の代表者と関係機関の長又はその正当に委任を受けた者とによつて、たがいにとりきめた時間に行なわなければならない。

(ろ)  交渉は、機関の長が適法に決定し及び管理する事項に限らなければならない。但し交渉は、懲戒に関する事項を含まないものとする。

(は)  交渉は、人事院に登録した職員の団体によつてのみ行なわなければならない。

との定めがなされている。これによれば、当局と職員団体との交渉に関し、交渉主体、交渉事項等についての規定はあるが、いわゆる合同交渉等交渉方式の点については何らの定めがなく、もとより特にそれに対する制限もない。従つてこの点については、右法及び規則の精神並びに従前の慣行、その他条理に従つてことを決定するほかはないというべきである。

② 本件についてみるに、

(い)(イ) 右四国地本及び高松支部はともに、全国単一組織の職員団体である全財組合の下部機関であるから、それぞれ四国財務局長に対応して交渉団体の適格がある。

(ロ)  交渉事項についていえば、これは元来、当事者間の団体交渉において解決が可能な勤務条件に関する事項でなければならないのであつて、右交渉によつては解決できない事項、或いは勤務条件とは直接関係のない事項は、これに該当しないものというべきである。而して、四国財務局長には、勤務評定を廃止、変更する権限はもとより、その実施方法に関し法令の規定ないしその趣旨に明らかに反する変更を行なう権限も全くないのであるから、これらの事項が交渉事項に属さないことは明らかである。(もつとも当時施行の国公法九八条二項の規定上、交渉事項として、勤務条件のほかに、とくに「社交的、厚生的活動を含む適法な目的ため」の事項が加えられているが、本件は、かような事項に属するものではない。)

ところで全財組合が本件反対闘争で要求しようとするところは、前記のとおりオールA・公開ないしは特別昇給源資の転用の要求等であり、この要求は、勤務評定の実施につき、当時施行の人事院規則一〇―二(勤務評定)の五条、一五条及び一七条、同細則九―八―二の二〇条等の規定の趣旨に反する運用方を要求するものというべきであるから、それ自体としては本来正当な交渉事項とならないものというべきである。

しかし本来交渉事項には属さない事項、例えば組合の勤評制度ないしはその実施方法に関する意見、希望或いはその上申の要求等も、当事者が合意でこれを交渉事項とすることは差支えないことである(ただそれは、あくまでも組合側の局長に対する単なる要望事項に過ぎず、局長の交渉受諾義務を伴なう交渉事項とはならない点に差異がある。)。のみならず、本件では、前認定のように、昭和三六年度において、本件とほぼ同様の組合側の要求事項に関して、当局の方である程度の譲歩をしているのであるが、その際ある範囲で裁量による特別昇給の取扱いも行なわれていることが、<証拠>からうかがえるところであるし、その事由はともかく職員間に生じた給与の著しい不均衡を是正するため等特段の事情がある場合についても、法規の建前が、特別昇給等の運用につきある程度の裁量を行なうことを必ずしも違法なものとする趣旨とまでは解せられないのであるから、組合側が事実上ある程度の裁量を施こすことを要望し、これを交渉事項とするよう局長に要求したからといつて、必ずしも直ちにその要求が違法、不当であるとはいえないし、更に明らかに法規に反しない限り具体的な勤務評定の仕方等の問題をとらえて、それを交渉事項とすることは当然許されるべきところである。

(ハ)  合同交渉の点についていえば、組合自体が如何なる交渉方式をとるかは、特段の規定等がない以上、原則として一応、組合側の自主的に決定できる事柄であるとはいえ、すべての場合に必ず合同交渉が許されるべきものと解するのは正当でない。後記の如く、一審原告等主張の合同交渉の慣行は認められないところであるし、更に前記法、規則の建前も、具体的場合の交渉事項等の点からみて、合同交渉の必要性も妥当性も認められない場合にまで、組合側が要求するからといつて当然に、合同交渉を正当なものとすべき趣旨のものとは考えられない。

而して本来団体交渉では、交渉当事者は互いに誠意をもつてこれに当るべきものである。ところで本件合同交渉に関する要求、拒絶は、その実質は、むしろ当事者双方の戦術的かけ引きとみるのが相当である。即ち、組合側は、合同交渉の方法により、少しでも交渉人員をふやし、その勢いをかりて目標とするオールA・公開等の要求にできるだけ近い結果を得ようと図つたものであり、一方局長側は、従前の勤評反対闘争の経過からみて、組合側の合同交渉に固執する意図を、ただ多衆の勢いに乗じて法規に反する勤務評定の運用を要求するためのものに過ぎず、合同交渉の方式に適しない場合として、頭から拒否の態度に出たものであると推認される。而して誠意ある交渉が行なわれるためには、組合側としても、交渉事項につき単に「勤評問題について」とだけしか表示を行なつていないその態度を更め、より具体的に合同交渉に適する交渉事項を提示すべきであり、一方民長側も、同様に、従前の経過ないし組合側の態度から推測するだけで早急に交渉を拒否することなく、具体的な交渉事項を明確にするよう努力を試みるか、或いは一応交渉に応じて爾後の態度を決する(一審被告は、後記のとおり、八日に至つて漸く合同交渉に応じているが)等の途を選ぶべきで、頭から合同交渉を拒否する態度に出るべきものではなかつたのである。従つて互いに誠意をもつてなされるべき交渉に臨む双方の態度としては、本件当事者双方ともに、一方的に他を非難することは許されないところというべきである。なお、争議権がなく、ただ交渉権のみしか有しない公務員組合の場合に、その交渉権を尊重すべきことが当然であるとしても、この交渉権は、法令ないしその趣旨に反することが明らかな事項の要求についてまで当然に認められるべきものでないことはいうまでもない。

(ろ)  合同交渉に関しては、すでに昭和三六年当時からその規制が問題とされていた事柄であるのみでなく、昭和三七年度においては全国的な問題で、四国財務局だけに限られた事柄ではなかつたのである。(従つてこの点につき本件当時の近藤局長の人格、態度を殊更問題視すべき余地はない。)従前四国財務局においても、合同交渉が行なわれた事例は確かに存在するが、しかしその交渉方式を当局側が慣行として承認して来たことまでを確認するに足る証拠はない。従つて、その慣行の確立を前提として、局長の合同交渉拒否が従前の慣行を破棄し、組合の既得権を侵害するものであり、組合の反対闘争を抑圧する意図に出たものであるとする一審原告等の非難は失当である。<証拠判断省略>

第三本件処分に関し一審原告等主張の事実誤認の有無について

(一)  勤務時間中の組合活動の正当性

国家公務員については、当時施行の国公法九六条一項が「すべて職員は、国民全体の奉仕者として、公共の利益のために勤務し、且つ職務の遂行に当つては、全力を挙げてこれに専念しなければならない。」、同法一〇一条が「職員は人事院規則の定める場合を除いては、その勤務時間及び職務上の注意力のすべてをその職責遂行のために用い、政府のなすべき責を有する職務にのみ従事しなければならない。」「職員は、政府から給与を受けながら、職員の団体のため、その事務を行ない、又は活動してはならない。但し、職員は、人事院によつて認められ又は人事院規則によつて定められた条件又は事情の下において、第九八条の規定により認められた行為をすることができる。」と規定し、職員の勤務時間中の職務専念義務と組合活動禁止の原則を明定している。而して人事院規則一四―一「職員団体に関する職員の行為」により、例外として、勤務時間中ではあつても勤務を要しない時間及びあらかじめ承認を得た休暇期間における組合活動一般と、勤務時間中の団体協約を含まない適法な交渉を行なう行為とが職員に対し特に許容されているのである。かような法規の建前からすれば、国家公務員に対しては、その地位並びに職務の公共性に鑑み、勤務時間中の組合活動は原則として禁止され、ただ団結権保障のため必要と認められる限度において、組合活動が例外的に許されているにすぎないものというべきである。しかも右例外法規は、関係当事者の意思によりその適用を左右され、或いは適宜にその内容を変更して適用することが許されるべき性格の任意法とは考えられない。従つて右例外以外の場合にまで、右法規を拡張解釈して、勤務時間中の組合活動を許容すべき余地は之しく、その場合の組合活動は、原則として右法規に違反し、違法なものというべきである。その際仮りに、この組合活動につき当局の承認或いは慣行があつたとしても、それだけでは、必ずしも直ちに右原則に対する例外となるものではない。而して勤務時間中の組合活動が許されるべきものか否かは、憲法の団結権保障の趣旨と国の業務の正常な運営確保の必要との調和の見地から考察されるべきであり、具体的場合における組合活動の目的、規模、方法その他の態様及び結果などからみて、その組合活動が、組合運営のため必要最少限のものであり、実質上国の事務の正常な遂行を阻害するまでに至らないものと認められる場合は、勤務時間中の組合活動も、違法な組合活動に該当しないものとされ、或いはその阻害の程度が比較的軽微にとどまる場合は、違法性が阻却されることがあり得るものというべきで、かような場合にのみ勤務時間中の組合活動も許されたものとなると解すべきである。

ところで本件において、一審原告等は、勤務時間中の組合活動を当局が承認或いは黙認していた従前の経緯に徴し、あらかじめ受くべき休暇の承認が慣行的に黙認のかたちで与えられていた場合である旨を主張する。而して四国財務局における勤務時間が、始業時間、昼食時間等の点で、従前多少厳格さを欠いでいた点があることは<証拠>に徴し否めないところであるが、しかし従前勤務時間中における若干の組合活動が当局から承認され或いは黙認されていたからといつて、そのため一概にその組合活動をすべての点において当然に適法、正当なものであると即断すべき限りではないこと前記のとおりであるから、その組合活動のため費やされる勤務時間についても、あえて当局の意思を擬制してまで、当局が当然に慣行的に休暇の承認を与え、殊にあらかじめの承認を与えていたものと解釈すべき十分な根拠はない。

(二)  勤務時間中の組合活動の慣行について

<証拠>を綜合すれば、次の事実が認定できる。

(イ)  従前組合関係の簡単な通知、連絡等は勤務時間中に度々行なわれ、それは職場の慣行とまでは認められないが、しかし当局側もこれを黙認し、殊に一、二分間程度の通知等については当局と組合間の協定により、総務課へ通知することだけで庁舎備えつけのマイクを使用して放送することも許されていたものである。

一審原告等はそれ以上に、組合所有の携帯マイクの使用までが自由である旨を主張するのであるが、しかしかかるマイクによる放送は、右協定に基づき、官側の管理する庁舎備えつけのマイクによる場合とは事情を異にし、その放送の時間、場所、方法等が無制限になされる虞れが大であり、他の職員の執務妨害の可能性が強いので、庁舎備えつけのマイクにつき、右協定があるからといつて、条理上当然に携帯マイクの使用までが許されるべきものとは考えられないし、更に、さような放送が時おり行なわれた事例があることはうかがえるが、しかしその放送につき当局も承認した慣行があつたとまでの事実を確認することは困難である。

(ロ)  時間内職場集会等の点につき

組合側主催の第一次評定者会議が、本件当時まで数年来、公然と開かれ、当局側も組合役員等の勤務時間中の参加に承認ないし黙認を与えていた事実があり、

共闘と局長の会見、交渉に際し組合役員が特に有給休暇の手続をとらずに参加することも従前許されていた事例があり、

勤務時間中の執行委員会も数年来黙認せられ、それに参加するための離席についても、所管課長等から許可が与えられていた事実があり、

昼休みの職場集会が多少勤務時間にくい込むことは、従前その例が時々あつたが、格別厳重な注意、処分等も行なわれないまま黙認され、相当長時間のくい込みの場合も諒解を求めれば、当局側は、これに承認を与えていた事例がある。

もつとも以上の態様の組合活動が、職場の慣行であつたとの事実までは、これを確認することが困難である。

(ハ)  総務課長との交渉の際、組合側が、同課長の都合を聞かずに直接面談に赴き、同課長も手続にこだわらず、何ら異議をいわないまま、その交渉に応じた事例が従前あつた事実は明らかであるが、一方あらかじめ電話等により、同課長の都合を聞いたので対談した事例もあることが認められるので、直接面談の方式が、従前の組合側との慣例ないし慣行であつたものとは認められない。<証拠判断省略>

(三)  一審原告等主張の事実誤認について

(1)  本件各処分の事由とされる事実の存否について

<証拠>と前記認定の本件勤評反対闘争の経過を綜合すれば、次の各事実が認定できる。

(イ) 一〇月二日の一審原告上川のマイク放送について

(一審原告上川関係)

(ⅰ) 全財組合四国地本及び高松支部において、前認定の昭和三七年度勤評反対闘争の方針を決め、同三七年九月二八日右四国地本及び高松支部において一審被告に対し勤務評定に関する合同交渉を申入れたが、同月五日まで前記のとおりその交渉が進捗しなかつたところ、その間において一〇月一日午後二時頃、一審被告が各課長からそれぞれ第一次評定者に対し勤務状況報告書を交付して、勤務評定実施を命ずるや、組合側は直ちに掲示板、局庁舎食堂入口等に「勤評反対」「オールA・公開」等と記載したアジビラを貼付する等これに対抗する措置に及んだ。

(ⅱ) かような状況下において、一審原告上川が、一〇月二日午後四時五分頃勤務時間中、四国財務局(以下単に局という)の階上、階下事務室において、前後約五分間位にわたり、携帯拡声器で、第一次評定者に対し、勤務状況報告書に記入しないことを要請する趣旨の放送を行なつた。もつとも右の放送は、勤務状況報告書を絶対記入しないよう要請したというのではなくて、前認定の全財組合の方針に基づいて勤務評定についての話合いを煮つめることができないので、一〇月二日当日の時点においては、勤務状況報告書を記入しないよう要請する、という趣旨のものであつた。

(ⅲ)(い) 当時階下事務室には約三〇名の職員が執務しており、また階上の事務室にも約三〇名の職員が執務していた。

そして右放送の音量は、職員のなす電話の通話の邪魔になりかねない程度のものであり、各事務室全体に聞える程度の大きさであつたのである。

従つて、いずれの事務室においても執務中の職員の執務の妨害となつた。

(ろ) 勤務時間中における携帯拡声器の使用を、一審被告が容認してきた事実はない。なお、庁舎備え付けマイクの使用に関する話合いの結果を確認した文書(前記協定)には、「簡単な通知事項、報告事項については総務係への通知を以て放送する。その他の事項については、総務課長に協議する」と明記されていて、協定による庁舎備え付けマイクの使用も、決して無制限に許容されていたものではないのであつて、一審原告上川が右協定に含まれない組合の携帯拡声器を使用し、しかも総務課への通知その他の手続を全くとることもなく、右のような放送をなすことは、一審被告側が当然承認している事項とはとうていいえないものである。

(ロ) 一〇月三日の第一次評定者の会合について(一審原告戸祭、同香川、同平尾、同上川関係)

(ⅰ) 一〇月三日午前一〇時三〇分頃より午前一一時三〇分頃までの間勤務時間中、局食堂において高松支部が主催した第一次評定者の会合に一審原告戸祭、同香川、同平尾、同上川及び訴外大塚文男等が出席、参加した。

(ⅱ)(い) 而して右会合の目的は、<証拠>に記載されているとおり、「用紙が配付されたら、所属長に対する抗議行動をいつそう強め、一定期間記入しないたたかいを組織します。提出時期は中央本部の責任において決定しますが、その場合(一〇月一〇日ごろ)は全国一せい職場大会を開催し、同時に提出します。なおその時点においては、オールA・公開を推進し、それが困難の場合は最低遅れ号俸のある組合員を優先的に評定するようにします。それとても、所属長に対する抗議行動の強弱が大きく影響することを忘れてはなりません」という趣旨の組合の闘争方針を、第一次評定者に対して徹底さすために行なわれたものであり、このことは、第一次評定者会議における論議の内容について、当時組合が発行した「闘争ニユース3」(乙第二〇号証)中に「高松支部では、三日、第一次評定者と執行部の合同会議を開き、

(a) 公開、均一評定

(b) 出すのも出さぬも、統一して行なう。

(c) 執行部は課長説得を行なうと同時に第一次評定者に対する圧力を排除する。

公開・均一の意思統一図る」

との記載があることからも明らかである。従つて右会合は、その進行の経過、決議の有無如何にかかわらず、勤務評定の法規に従う実施に反対する目的のもとに行なわれたものとされても止むを得ない。

(ろ) この会合は、前記のとおり、数年来公然と開かれていたものであるが、その開催については、当局の承認或いは黙認を得て行なわれていたものであつて、全く無断で開催することが許されていたものではない。また昭和三七年度の右会合においては、前田総務課長及び谷岡課長補佐が、右会合の開催中に再度にわたつてこれを制止したにもかかわらず、一審原告等はこの制止を無視して右会合を続行したものである。

(は) 而して右会合はあらかじめ一審被告の承認を得て開かれたものでもなかつた。

(ⅲ) 一審原告上川が右会合において、勤務状況報告書の提出を延伸するよう要請し、「あおり、そそのかし」に該当とされる行為をしたかどうかについて

同原告は、この会合で司会役をつとめ「今年もオールA・公開で行きます。したがつて一つ御協力を願う」及び「提出期日をいつにするかということは、現在局長交渉も出来ていないし、局長交渉のなりゆきをみてみないと、いつとということはわからないと、今言えることは先に出すんだというような、なんて言いますか、ぬけがけの功名と言いますか、そういうことはやめて、出す時は一緒に出そうと、出すも、引くも皆んな一緒にしましよう。」

と要請した。

(ハ)、(二) 一〇月五日の局長会見参加(一審原告戸祭、同香川関係)並びに局長退出妨害(一審原告戸祭関係)について

(ⅰ) 一〇月三日午後〇時一五分頃より午後一時一五分頃までの間にわたり、高松支部は、局庁舎階下事務室において、臨時大会を開催して、組合員より代表者一六名を選出した上、局長交渉にあたることを決議したりしていたが、同日午後二時頃から四時五〇頃までの間、共闘議長等八名は前田総務課長に対し、一審被告との会見の予備交渉を行なつた上、来る一〇月五日午前一〇時三〇分から賃金ベースアップ問題と全財務の勤務評定についての交渉を軌道にのせることを主たる目標として、局長と共闘役員が会員することとなつた。

(ⅱ) かくて一〇月五日局長室において、午前一〇時三〇分頃より午前一一時三〇分頃までの間、勤務時間中に行なわれた局長と共闘役員との会見に一審原告戸祭及び同香川が、いずれも年次有給休暇の手続をとらないで、同会見に参加した。

(ⅲ) 同日の右会見は、一応一〇時三〇分から一一時までと予定されていたところ、その予定時間がが過ぎると局長は、その後はもはや話合いに応じないとの態度をとり、一一時三〇分頃になつて、もう話は聞くだけ聞いた、これで話合いを打切る旨発言し、それでも暫く席にいたが、その間、ただ荻阪理財部長に対して、あとを頼むといい残して、他の一座の者には挨拶をしないまま席を立ち、当日予定の日銀における調査に赴くため、局長室を出たところ、共闘の沢田副議長が「局長待てえ、逃げる気か」と大声を挙げながら局長を追いかけ、一審原告戸祭も、右沢田に続いて局長を追いかけた。

このとき局長は、周囲の気配から、そのまま階段を降りることを危険と感じて、一旦は階上おどり場を通り過ぎたが、前方廊下が行き止まりのため再びおどり場に引き返し、一瞬立ち止まつた際、右沢田が局長に追いつき、そこで階段を背にした沢田と局長が向い合う態勢となり、右原告戸祭がその近くまで来ていた。ここにおいて局長は止むなく、そのまま理財部事務室の南の入口から室内に入り、金融課と総務課総務係の席の間を北に進み、北側の窓口のところで南向きに立ち止つたところ、局長のあとを追う共闘役員及び一審原告戸祭等その他多数の者が、一瞬にして局長を取り囲み、その周囲に二〇人位の人垣が出来上つた。

その時局長を取り囲む人々が、口々に「局長逃げるとはけしからん」「会見中にだまつて飛び出すとはけしからん」「絶対出さん」「局長室へもう一回帰つて話を続けん限りは出さん」「ひきようや」等と騒ぐ中で、一審原告戸祭は、局長の直前附近でなにごとか大声でいいながら、局長に詰めよる態度を示した。

以上の右原告戸祭等の行為により、局長は当初局長室を出てから約七、八分間にわたりその退出を妨害された。

(ホ) 一〇月五日の一審原告香川等の経理課長要請について(一審原告香川関係)

一〇月五日午後一時三〇分頃勤務時間中、一審原告香川が高松支部長大塚文男等とともに局経理課長室において、真鍋課長に対し、「勤評書の提出を督促しないでくれ」と要請し、勤務評定制度その他に関する対談を行なつた。

これは、前記の、交渉経過による適当な時期まで勤務状況報告書を提出しないという組合の方針に従つてくれるよう同課長に対し要請する趣旨のものであつたことが明らかであり、右要請は、当然勤評反対闘争中の組合活動の一環として行なわれたものであつて、その実態は決して単なる挨拶程度にとどまるものとはいえないものである。

なお、その所要時間も五分位の短時間ではなく、約二〇分位であり、経理課長としてはもとより右要請をそのまま諒承していたものではなく、同課長が、右原告香川等との対談に応じたのは、ただ断つても簡単に帰らないのであろうから、この際むしろ組合の行動に逸脱しないよう右原告等を説得した方がよい、と判断したことによる結果であつた。

(ヘ) 一〇月五日の一審原告戸祭の放送について(一審原告戸祭関係)

一〇月五日午後三時頃勤務時間中、右原告戸祭が、局階上事務室において、携帯拡声器を用い、執務中の職員に対して同日午前中の局長と共闘役員との会談及びその後の状況について約四、五分間にわたり放送した。

そうして、前田総務課長が杉本総務係長をして、この放送の中止命令を伝達をさせたのであるが、同原告は右中止要求を受けた後も、なおその放送を続けたのである。

右放送の当時、局階上事務室において執務していた職員は約三〇名であり、右放送は、携帯拡声器によつて、階上広間事務室全体に聞える程度の大きさでなされ、執務中の職員がその方に気を取られていたのであるから、その口調が淡々としたものであつたか否かなどにかかわらず、執務中の職員がこの放送によつてその執務を妨害されたことは明らかである。

(ト)  一〇月八日のいわゆる勤評用紙(勤務状況報告書)の組合保管について(一審原告戸祭、上川、香川、平尾関係)

(ⅰ)(い)  勤務状況報告書の組合保管の決定

昭和三七年度勤務評定については、第一次評定者に対し、勤務状況報告書を一〇月八日午後五時までに第二次評定者に提出すべき旨の局長の業務命令が発せられていたのである。

(a)  一〇月八日までの交渉経過

前記のように、四国財務局においても、全財組合四国地本及び高松支部は、全財組合の勤評反対闘争方針をうけ、その一環として、勤評反対、勤務状況報告書の提出拒否、オールA・公開等の勤評反対闘争を行なう方針を取りきめ、同三七年九月二八日に一審被告に対し四国地本、高松支部のいわゆる合同交渉の申入れを行なつたが、一審被告は、個別交渉なら応ずる旨を回答して譲らず、組合側も一〇月一日から同月五日までの間数回にわたり右申入れをくり返したが、埒があかず、交渉は行き詰り状況になつていたところ、組合側は沼田委員長(全財組合中央執行委員長)の現地派遣を受けて局面の打開をはかり、一〇月六日に至つて漸く、八日午前一〇時から合同交渉を行なうことに一審被告の詰承を得たのである。

(b)  一〇月八日の交渉経過 一〇月八日午前中、

組合側から、最高責任者は以後沼田委員長であることの申出をした、

組合側から、交渉が九月二九日から拒否された責任は当局にあり今後こういう交渉拒否はしない旨の要請があり、

組合側から勤務状況報告書提出についての文書命令の撤回要請があり、

組合側から、一〇月八日五時の期限は、交渉に当つて支障もあるので十分話合いをするために棚上げにしてほしい旨の要請があり、

組合側から、交渉中は勤務状況報告書提出の督促しない旨の要請があり、

双方昼休みの後、午後もう一度話合いをすることを確認した。

同日午後一時二〇分頃再開、

組合側から再三にわたり、提出期限の延期の申出をしたが、局長は、午後五時の期限を延期することはできないと回答した、

組合側から局長に対し、十分の三Aとか、評定者の少数の場合はどうするかとか、アンバラの問題を出したところ、局長としては、そういう問題については既に初中会(四国財務局における部課長会)なり、総務課長に話してあるので、各課長あたりにきいてもらいたい旨の回答をした。

かような話合いの状況で、結局午後二時二〇分頃双方対立のしこりを残したまま交渉が決裂した。

(c)  組合の勤務状況報告書保管に至る経過、とくに処分書にいう執行委員会なるものについて、

右のように、午後二時二〇分頃局長交渉が決裂したので、沼田委員長以下四国地本、高松支部の執行委員等(約九名)は、一旦局庁舎内小使室まで引き揚げたのであるが、間もなく、一同相談の上、一応当日の交渉の経緯等について階上、階下の職員に対して状況報告を行なうこととなり、五、六名の執行委員を従えて沼田委員長が、階下から階上への順路でその報告を行なつたのであるが、その際沼田委員長は、第一次評定者に対して、ともかく頑張つて抵抗してくれという趣旨の要請を行なつた。そしてその後において、右執行委員等が更めて各第一次評定者に対して、勤務状況報告書の当日の提出を見合わすように説得に廻つたのであるが、一方、その以前においてすでに、官側が、課長等を集合せしめて打合わせなどを行なつているとの情報が伝えられていて、官側の態度が意外に強硬なことが察知されていたし、右説得の際後記のとおり、第一次評定者からの希望なども出されたことにより、結局組合側は、当日五時の提出期限を間近に控えて、緊急の措置の必要を認め、沼田委員長のほか四国地本及び高松支部の執行委員の数名が組合事務所に集合し、そこで執行委員会を開催して、本件勤務状況報告書を組合で保管する旨の決定をするに至つたものである。

この決定をした時刻は、おそくとも当日午後四時前後の勤務時間中であり、右会合の参加者は、沼田委員長のほか、一審原告香川(高松支部副委員長)、同上川(同書記長)、同平尾(同執行委員)及び訴外平川嘉一(同執行委員)、同大塚文男(高松支部委員長)等であり、その主体は高松支部の役員で構成されていたものであつて、なお一審原告戸祭(四国地本委員長)及び訴外小田啓実(四国地本、執行委員)、同秋月勲(同執行委員)も同時刻に同事務所にい合わせたものである。

而して右会合が、組合規約に定められた正規の執行委員会といえるかどうかについては、実際には、当時組合では、定足数に充ちた正規の執行委員会でなくても、ある程度の人数の執行委員が集まつて一定事項の決定をすれば、これを執行委員会と理解し、又そのように称していたのであつて、しかもそのような執行委員会もいわゆる持ち廻り決議や、事後承認等の形で、正規の執行委員会が成立したものと同様に取扱われていた実情にあつたことがうかがえる。したがつて、本件の会合は、形式の如何にかかわらず少くとも組合員間で執行委員会と称されていた、前記構成による役員の会合であつたとともに、当日在庁の全執行委員が直ちに右決定の趣旨に従い、勤務状況報告書の回収行為を共同して行なう挙動に出ている(後記参照)ところよりして、右の決定も高松支部執行委員会の決議として取扱われたものである。このことは、全財速報、全財新聞及び第一〇回臨時全国大会議案書で、全財組合自ら、この会合を執行委員会或いは、戦術会議と称している点に徴してもうかがえるところである。

(ろ)  かくして右決定に基づいて、高松支部及び四国地本の役員が、数名ずつ第一次評定者の席を廻つて、右決定の方針に従い、官側には提出せず、組合に預けるよう説得し、勤務状況報告書を回収したのであるが、このときにおける一審原告等の行動は次のとおりである。

(A)  一審原告戸祭関係

同原告戸祭は

融資課において、第一次評定者である福岡監査係長に対して、他の組合役員である同原告平尾、同香川、訴外平川、同美濃等とともに、

総括課において、第一次評定者である望月総括係長に対し、他の組合役員である同原告香川、同上川、訴外秋月等とともに、

管財課において、第一次評定者である山下管財第一係長に対し、他の組合役員である同原告上川、訴外小田、同平川、同高橋、同前田、同秋月、同大塚等とともに、

経理課において、第一次評定者である北村経理係長に対して、

それぞれ勤務状況報告書を組合に預けるよう説得し、

更に右経理課において、北村経理係長が真鍋経理課長に提出しようとした勤務状況報告書を、同課長と引つ張り合つて同課長の制止を妨害した。

(B)  一審原告香川関係

同原告香川は

融資課において、第一次評定者である福岡監査係長に対して、一審原告戸祭と同様に、

総括課において、第一次評定者である望月総括係長に対して、右原告戸祭と同様に、

主計課において、第一次評定者である佐藤監査第三係長に支して、組合の人たち四、五人とともに、

それぞれ、勤務状況報告書を組合に預けるよう説得した。

(C)  一審原告上川関係

同原告上川は、

融資課において、第一次評定者である福岡監査係長及び湊監理係長に対して、他の組合役員である訴外平川、同太田、同前田、同美濃とともに、

徴収課において、第一次評定者である尾山収納係長に対して、他の組合役員である原告平尾、訴外平川、同高橋、同大塚、同秋月等とともに、

総括課において、第一次評定者である福島管財総務係長に対して、他の組合役員である訴外沼田委員長、右原告戸祭、同香川、訴外秋月等とともに、

管財課において、第一次評定者である山下管財第一係長に対して他の組合役員である右原告戸祭、訴外小田、同平川、同前田、同高橋、同秋月、同大塚等とともに、

経理課において、第一次評定者である西山用度係長に対して、他の組合役員である訴外秋月等とともに、

それぞれ勤務状況報告書を組合に預けるよう説得し、

右管財課における組合役員の回収説得を阻止するため右山下係長を説ゆしようとする塹江課長に対し、そういわずに係長の判断にまかしなさいと申入れて、阻止行為を妨害し、

(D)  一審原告平尾関係

同原告平尾は、

融資課において、第一次評定者である福岡監査係長に対して、右原告戸祭と同様に、

徴収課において、第一次評定者である尾山収納係長に対して右原告上川と同様に、

それぞれ勤務状況報告書を組合に預けるよう説得した。

そして以上の行動の結果、一審原告等四名及びその他の四国地本、高松支部執行委員等の手によつて、第一次評定者二一名(係長たる第一次評定者においてはそれぞれ一名ないし二、三名の係員の勤務状況報告書を所持していたのである)から、その殆んど全部が記入済みの勤務状況報告書を回収して組合に保管したものである。

なお、一審原告戸祭の管財課における塹江課長に対する妨害及び一審原告上川の融資課における関口課長に対する妨害の各行為を認めるに足る確証はない。

(ⅱ)(い) 右勤務状況報告書の組合保管は第一次評定者の希望に基づいて行なわれたものかどうかにつき

前認定のように、当日午後二時二〇分頃局長交渉が決裂したので、沼田委員長ほか五、六名の執行委員(交渉委員)が、局庁舎階上、階下を廻つて組合員に対し、当日の交渉の経緯等について報告を行ない、次いで各第一次評定者に対して、勤務状況報告書の当日の提出を見合わすよう説得に廻つたが、その間第一次評定者のなかには、例えば、望月総括係長等一部の者は、円満に官側との話合いがつくまでは提出しないで自分の手許においておくという強い態度の者もいる反面、当局の方からは提出を督促されて板ばさみになるので、一時的に組合に預つてもらうほかない。或いは預つてもらえばよいがという意見を提案した者も、相当数いたのであり、例えば、徴収課の白井係長、或いは尾山係長、金融課の獅子堀係長、木村係長、総括課の徳田係長等がその例であつた。

而して当時係長等の地位にあると同時に組合員でもある第一次評定者が、前年の昭和三六年度の反対闘争における如く、昭和三七年度においても、当局と組間合に一応円満な交渉が成立した上で、勤務状況報告書を提出する運びになることを希望するのは、その立場の無理からぬところというべきである。しかるに昭和三七年度の本件闘争では、その交渉が成立するまでに至らず、相対立する両者の板ばさみとなつたのであるから、第一次評定者として困惑を感じる者が出ることは当然であり、しかも組合では、当時前記のとおり、本件闘争につき組合が前面に出て闘争を行ない、第一次評定者に対する過重な負担をかけないとの戦術をとつていたのであるから、かような状況のもとで、右の如き組合保管の提案をなす者があつても、これは成り行きとして不自然なものとはいえない。しかし前記組合の保管に委ねた第一次評定者の全部が、組合側の前記説得に直ちに素直に応じれたものではなく、右提案者中でも、獅子堀係長はその後自らの提案に反して勤務状況報告書を担当課長に提出して出張してしまつているし、白井係長か尾山係長かは、組合に預ける者が少い場合は、自分の報告書も戻して貰いたい旨特に注文をつけて組合側に預けていることが認められるし、その他管財課の山下照雄係長は、組合側からの説得に迷いながら、結局その報告書を収納箱から組合役員が取り出して持ち去るにまかせた状況にあることが認められるのであつて、組合側の説得に止むを得ず応じた第一次評定者も少なからずいた状況が推測できるので、当日在庁していて組合側が説得を行なつた二二名の第一次評定者中二一名の者が勤務状況報告書を組合側に預けるに至つた事実(なお、当時の第一次評定者の総数は三一名であつて、その立場上説得が無駄であり、組合側もあえて説得をしなかつた総務課係長四名と、当日出張或いは休暇中のため実際上組合側が説得できなかつた係長四名及び右報告書を自宅に置き忘れて当日持参していなかつた係長一名の合計九名が、右二二名以外の残された第一次評定者である。)があつても、前記組合保管がすべて第一次評定者の希望に基づいて行なわれたものということはできない。

(ろ)  一審原告戸祭の「勤務状況報告書の組合保管」につき「あおり、そそのかし」に該当するとされる行為があつたかどうかにつき

右原告戸祭は、四国地本執行委員長として、右高松支部執行委員会の決定した前記「勤務状況報告書の組合保管」の方針に従つて、支部執行委員等とともに、同日午後四時頃から同五時頃までの間勤務時間中、右決定事項を支部組合員に通知するとともに、前記のとおり、第一次評定者を説得して、組合に対し多数の第一次評定者から勤務状況報告書を回収、保管せしめたものである。

(は)  次に右決定は沼田委員長が行なつたものであつて、四国地本、高松支部の役員等はその指示に従つたに過ぎないものかどうかにつき

全財組合は全国的単一組織であるが、その組織の体質として、現地の意思を無視できないものがあり、下部組織の意向を尊重する実態をもつていて、中央本部の方針に基づいて行なう闘争の一環として、地方本部又は支部が、具体的に或る戦術決定を行なうような場合にも、その主体はあくまでも当該地本ないし支部であつて、中央本部派遣のオルグにはそれが中央執行委員長の場合といえども、その決定の権限はなく、ただオルグの役目は、決定に至るまでの助言、指導などを行なうに過ぎないものであること、のみならず本件勤務状況報告書の保管は、組合本部の方針に必ずしも忠実にそうものではなくて、むしろそれを越える性格のものであり、場合によれば重大な結果を伴なう虞れが多分にあり、ひとり沼田委員長の独断、専行にたやすく委ねられるべき事柄とは考えられないものである点等に鑑みると、一審原告等主張のとおり、沼田委員長が四国地区と縁故が深く、同地区の組合員から高度の信頼を受ける立場にあつた者であること、その他全財組合の全国大会における組合保管に関する議案並びに決議の状況などを考慮に入れても、右保管の決定を沼田委員長が単独で行なつたものとするのは相当でなく、もとよりその間に沼田委員長の助言、指導はあつたにしても、その決定自体は前記のように高松支部の執行委員会が行なつたものとみるべきものである。

(に) 本件勤務状況報告書の組合保管(回収)は、官側の違法、不当な交渉態度に対抗して組織防衛のため止むを得ない唯一の手段として行なわれたものかどうかの点につき

前認定のように、従来合同交渉の慣行が確立していたものとはいえないし、本件では、一審被告が個別交渉を固執したというのなら、組合側もまた合同交渉を固執したものというべきであつて、具体的事項の交渉に入れないまま勤務状況報告書の提出期日八日を迎えたのは、必ずしも一審被告側のみの違法、不当な態度に起因し、専ら一審被告の責任であるとまでは一概にいえないし、また八日の午前、午後にわたつて開かれた合同交渉においても、具体的な内容の交渉に立入る以前に組合側は、当日五時の提出期限の延期を求めることに主力をそそぐ態度に出たため、双方とも交渉に行き詰る破目となり、遂に交渉は決裂するに至つたものであるが、組合側の右延期要求の態度は、折角合同交渉に漕ぎつけたところで、短時間の、形だけの交渉で、何らの成果も得られないまま、時間切れを理由に早々に交渉を打切られることをおそれて、とにかく相当時間交渉を継続するためには、さしせまつた提出期限の延期を求めるほかに途がないので、右交渉態度に出たものと推測できるのである。その結果は、前認定のように、何ら実質的内容に入ることなく、交渉決裂の事態に陥つたものであるが、かような事態におかれた組合側としては、相手方の交渉態度を不当なものとし、かつ同日午後五時にせまつた勤務状況報告書の提出期限をひかえて、ともかく交渉の再開、継続よりほかに途がない事態におかれたところ、たまたま前認定のように、組合員である第一次評定者中から組合保管を希望する声もあつたので、困難な事態を打開し、交渉再開を求める方策として、早急に組合保管に踏切るに至つたものであることが認められる。(この措置は終局的には、オールA・公開等の組合の要求にもつながるものであるが、前認定の交渉決裂の経緯及びその際における局長側の態度並びに冒頭掲記の証拠に徴し、組合側が勤務状況報告書の回収後に再び委員会を開き、右報告書を翌日返還するとの打合せを行なつていることが認められる点などからみて、この組合保管の措置が組合側に多少なりとも交渉成果の得られる見込みないしは意図に基づいてなされたものとはとうてい認められない状況であつたと推認される。)而してこれは結果としては、公文書を官の意思に反して違法に組合で保管するという、良識のある組合としては、その結果の重大さを考慮すれば、ちゆうちよせざるを得ないような措置を選んだものというべきである。従つて、組合保管の行為が組織防衛のため、組合にとつて真に止むを得ない唯一の手段であつたとはいえない。(なお、八日午後五時過頃局長は高血圧のため高松病院に入院したため、六時頃直ちに交渉をもち、右報告書返還やアンバラ是正等について話合おうとした組合の再交渉申入れは不可能となつた。)

(チ) 一〇月九日の一審原告戸祭の沼田委員長同行について(一審原告戸祭関係)

(ⅰ) 一〇月九日午前一〇時頃勤務時間中、局階上事務室において、沼田委員長が、前日、勤務状況報告書を組合に保管した経過について、執務中の職員に三、四分間位経過報告を行なつた際、一審原告戸祭が沼田委員長に同行した。

(ⅱ) 右原告の同行につき、前田総務課長の命を受けた杉本総務係長がこれを制止していて、しかも右のような勤務時間中の組合活動は、従来の職場慣行上容認されていたものとはいえないものである。

(リ) 一〇月九日の職場集会について(一審原告戸祭、同上川、同香川、同平尾関係)

(ⅰ) 一〇月九日、局階下事務室において、午後〇時三〇分頃より午後一時二七分頃までの間、勤務時間にくい込む職場集会が行なわれた。

もつとも、この集会の開催については、一審被告が事前に許可を与えているのであるが、その際、勤務時間内にくい込まないようにと特に注意して許可を与えたものであり、午後一時一五分に、始業のベルが鳴つたのちにおける集会の継続については承認を与えたことがなく、むしろ前田総務課長自らその中止解散を命じたにもかかわらず、これに従わず、勤務時間内にくい込み、午後一時二七分頃に至つて、ようやく解散したものである。

(ⅱ) 一審原告戸祭等四名は、訴外大塚文男等とともに、右職場集会に参加したものであり、その際の各人の行為の態様は次のとおりである。

即ち、右原告戸祭は、地区管内各支部の闘争経過報告をし、同上川は大会宣言文を朗読し、同平尾は、中止命令を伝えようとした総務課長の入室を阻止し、同香川は司会役を勤め、激励電報をひろうし、更に組合支部長に対して中止命令を伝えようとした総務課長の行動を制止したものであつて、いずれもそれにより、本集会の進行、維持につき相当な役割を果たしたものである。

(ヌ)(A) 一〇月一〇日一審原告等四名の第一回総務課長抗議要求について(一審原告戸祭、同上川、同香川、同平尾関係)

一〇月一〇日午後二時頃から午後二時三〇分頃までの間勤務時間中、一審原告戸祭、同香川、同平尾、同上川の四名が、他の組合役員約六名とともに、総務課長室において、前田総務課長の机をとり囲んで、同課長に対し、一〇月八日に勤務状況報告書が組合に保管されたこと等勤評反対闘争の結果措置について、局長や総務課長は怪しからん等と相当大きく荒立てて抗議要求を行ない、その結果同課長の勤務が妨害された。

(B) 一〇月一〇日右原告等四名の第二回総務課長抗議要求について(右原告戸祭、同上川、同香川、同平尾関係)

同日午後四時三〇分頃から午後五時頃までの間、右原告戸祭、同香川、同上川、同平尾の四名は、訴外大塚文男その他の組合役員六名以上の者とともに、監察官室において、総務課長に対し、いわゆる非行調査に立会わさすよう抗議要求を行なつた。

その態様は、通常の課長交渉ではなくて、右原告四名を含む約一〇名の組合員が、事前に右課長の都合をきくなど連絡もしないまま、いきなり、四坪位の監察官室へどやどやとは入り込んできて、激しい剣幕で、非行調査に立会わすよう、つめより、喰つてかかり、同課長が、勤務の邪魔になるから、仕事中だからいけないと、当該行為の初めと途中の二度にわたり注意し、退去を求めたにもかかわらず、これを無視して約三〇分間しつように、また荒々しく右抗議を継続したものである。

その結果、同課長の勤務である右の調査の事務が妨害された。

(C) 一〇月一二日右原告等四名の総務課長抗議要求について(右原告戸祭、同上川、同香川、同平尾関係)

一〇月一二日午後三時頃から午後四時三〇分頃までの間、勤務時間中、右原告戸祭、同香川、同上川、同平尾の四名はで訴外大塚文男その他の組合役員六名位とともに、総務課長室において、前田総務課長に対し、集会不許可、離席問題等について抗議を行ない、同課長の勤務が妨害された。

その状況は、右一〇名位の者が総務課長室におしかけ、同課長に対し次のような言動に及んだのである。即ち、同課長は右組合役員等から、あまり職員の離席をやかましくいう課長がいるので総務課長の所へもろくろく来れない、何故そんなに離席をやかましくいうのかなどいきなり抗議を受けたが、その声は非常に荒々しく、やかましくまくし立てる抗議であり、その語気も強いものであつて、平常の状態とは大分違つた役員等の態度であつて、その場の状況は従前の課長交渉の際には認められない異様なものであつた。

(ル) 一〇月一二日の一審原告平尾のマイク放送について(右原告平尾関係)

一〇月一二日午後〇時一〇分頃の勤務時間中、右原告平尾が、階上事務室において、携帯拡声器を用いて、高松支部組合員に対し、同日、共闘が中庭で開催しようとした無許可の抗議集会に参加するよう呼びかけた。

而して、右原告平尾が、右呼びかけを行なつた数分前に、一審被告側が、庁内備え付けマイクで右集会を禁止する旨の放送を行なつているのであるから、同原告がこれを知らないはずはない状況にあつたものである。

以上の事実が認められる。<証拠判断省略>

(2)  進んで以上認定の(イ)ないし(ル)の各事実が一審被告主張の懲戒事由に該当するものであるかどうかについて判断する。

① 先ず右各事実について違法の有無を検討する。

(イ) 前記(イ)の事実について

(ⅰ) 一審原告上川は公務員として職務専念義務があるにもかかわらず、前認定のとおり、勤務時間中において、本件勤評反対闘争の目的達成のためで第一次評定者に対し、前記全財組合の反対闘争の方針に従つて、勤務状況報告書を記入しないでくれと要請する放送を、前認定の相当時間にわたつて行ない、勤務中の他の多数の職員の執務を妨害する結果を惹起したのであるから、その際用いた言語が刺激的なものであつたかどうかは問うまでもなく、その行為の態様からみて、他に特段の事情がない限り、この放送は違法を免れないものというべきである。

(ⅱ) 前記(第三の(一))のとおり、勤務時間中における組合活動も、場合により、違法性を欠くと認めるべきものがあり得るところ、一審原告等は、本件一〇月二日のマイク放送は従来の慣行によつたものであり、しかも当局側から全く警告中止が行なわれていないし、その放送の必要性及び態様等いずれの点からみても正当な組合活動であるから、これを処分理由とすることは許されない旨を主張する。しかし前記のとおり、組合と当局間の協定によるマイク放送は、本件の如き携帯マイクによる放送の場合までも含むものではなく、携帯マイクによる放送を一審被告が容認してきた事実もないのであるから、本件の放送は、とうてい従来認められた慣行によつたものとはいえないものであり、しかも前認定のとおり、その放送の内容、並びに時間、方法などの態様、及びそれが多数の職員の執務の妨害になつている事実等からすれば、本件放送は、本件勤評反対闘争の一環として行なわれた組合活動であるが、たやすく組合運営のため必要最少限のものとはいえないものであつて、勤務時間中の組合活動として正当なものとは認められず、あえて当局の中止命令等を待つまでもなく、違法を免れないものというべきである。この点の一審原告等の主張は採用し難く、一審原告上川はみだりに職務を放棄して右マイク放送により他の職員の勤務を妨害したものというべきである。

(ロ) 前記(ロ)の事実について

一審原告等は、過去数年来公然、平穏に慣行として認められて来た第一次評定者の会合を、従来の慣行に反して、しかも総務課長の独断で中止を命じ、まして従前処分、警告等も全くなしに行なわれて来た組合役員の参加を「みだりに職務を放棄したもの」として処分理由としたことは、正当の理由なしに組合活動上の慣行を一方的に破棄するものであつて、とうてい許されない。一審原告等に対するこの点の処分が違法、不当である旨主張するので検討する。

過去数年来本件の如き組合主催の第一次評定者会議は、公然と開かれていたが、その開催については、当局の承認或いは黙認があつたもので、全く無断で開催することが許されていたものでないこと、本件昭和三七年度の会議については、一審被告の事前の承認を得たものではなかつたことが前認定のとおりであるから、当局の中止命令を直ちに従前の慣行に反する措置であつたとまではとうていいえないし、しかも一審原告等は、前田総務課長及び谷岡課長補佐が右会議の開催中再度にわたつてこれを制止したにもかかわらず、これを無視して右会合を続行したものであるから、この点を一審被告が、「みだりに職務を放棄し」たものと評価し、処分の対象としたからといつて、それが、従前の慣行に反するなどとの非難はもとより当らない。右慣行の存在を前提とする一審原告等の主張は理由がない。

なお、一審原告等は、総務課長の右制止の措置の効力を問題としているが、当時局長が総務課長に対し、言語上では、単に事態の確認を命じたに過ぎないとしても、局長を補佐する立場の総務課長としては、具体的状況に応じて、その際の局長の真意を推察し、その真意にそうべき適宜の措置をとり、違法事態に対処するのがむしろ職務に忠実な当然の態度というべきであり、弁論の全趣旨に徴すれば、本件においてなされた総務課長の制止の措置は、結局、その際の局長の真意にそうものであつたことが推測できるところであるから、一審原告等のこの点の非難も失当である。

従つて、右会議に勤務時間中参加した一審原告等の行為は、「みだりに職務を放棄した」ものというべきであり、所属各課長中一部に、右会議参加を許可した者がいたとか、或いは一審原告等自らの参加時間が一五分或いはせいぜい三〇分位までの短時間に過ぎないことなどの一審原告等主張の事実も、以上認定の本件会合の具体的状況に徴すれば、右会議の主催者側である一審原告等の参加行為が違法性を全く欠くものとまで認めるに足る特別事情とはならない。

しかし一審原告上川の要請行為は、後記の本件勤務状況報告書の組合保管を念頭においてなされたものではなく、局長との交渉経過をまつて一せいに提出しようというもので、せいぜい右報告書を組合側が、指定された提出期限どおりに提出しない場合のあり得ることを予測してなされた行為に過ぎず、その目的は単純な一時的業務の放棄を意図するにとどまるものというべきであつて、この程度の行為は、争議行為として直ちに違法な争議行為とはいえないので、右原告上川の行為は後記((ト)(ⅲ))「あおり、そそのかし」の解釈に照らして、その「あおり、そそのかし」た行為には該当しないものというべきである。

(ハ)及び(ニ) 前記(ハ)及び(ニ)の事実について

(ⅰ) 一〇月五日の局長会見参加(一審原告戸祭、同香川関係)

一審原告等は、この会見は前日から予定されていたものであつて、従前の慣行に従い、一審原告戸祭が、共闘常任幹事の資格で、同原告香川が、大塚支部長の代理で高松支部の代表として、参加したものであり、しかも従来当局は、有給休暇をとることなしに参加を認める慣行であり、当日一審被告からも何ら異議が出なかつた旨を主張する。

しかしながら、共闘は、それ自体として一個独立の団体であり、その構成員としては、国家公務員の職員団体のみならず、地方公務員の職員団体をも包含するものであることが弁論の全趣旨に徴して明らかであるから、財務局長との関係では、共闘は、当時施行の国公法九八条二項等、人事院規則一四―〇、同一四―一にいう職員団体とはいえないものであり、しかも本件では、右原告等は、共闘の一員の資格で右会見に参加したもので、財務局の職員団体あるいは職員個人として参加したものではないことも弁論の全趣旨から明らかであるから、かりにこの会見が、前日から予定されていたものであり、それに参加した右原告等がそれぞれ財務局の職員団体の代表者あるいは職員の一人であるからといつて、右法、規則等にいう職員団体等との交渉の場合と同様に、この会見参加につき当然に職務専念義務が免除されるいわれはない。従つて右原告等が、年次有給休暇の手続をとらないでこれに参加したことは、当然に適法な行動であるとはいえない。また、右原告等が、右会見に出席することを局長が知つていたとしても、更に、かりにその会見室に右原告香川が無断で入室したものではないとしても、これにより当局側が、右原告等の会見参加を認容したものと認むべきかの点はともかく、そのことから直ちに当然に、局長が、右原告等に対し有給休暇をとることなしに参加することまで承認したものとはいえない。従つて右原告等の行為がみだりに職務を放棄し、勤務時間中に組合活動に従事し、職務専念義務に違反したものとされるのは止むを得ない。

もつとも前認定のとおり、右会見については、従前有給休暇手続をとらないで参加することを当局側も認めた事例があるし、右会見の相手方は、その手続における当面の責任者の一審被告局長であり、しかも右会見の席上で、この点につき当局側から何らかの異議、申出もなされていないことが弁論の全趣旨からみて明らかであるから、右原告等が、その際、右手続の履行につき配慮を怠つたことは、違法であることを免れないが、しかしそれにはかなりゆうじよすべき余地があると考えられるのであつて、あえて強く違法な態度として非難すべきものではない。

(ⅱ) 局長の退出妨害(一審原告戸祭関係)

一審原告等は、退出妨害といわれる行動は、局長の非礼を共闘役員がとがめたものであり、一審原告戸祭には、退出妨害の意図も行動もなく、右行動を右戸祭一人の責めに帰することは許されない旨主張するのであるが、前認定のとおり、すでに打合わせで定められた交渉予定時間を三〇分位も過ぎ、局長がともかく話合いを打切る旨の発言までした後で席を立つて、当日予定の他の用件のため退出しようとするのを、右原告戸祭ほか多数の者が追いかけ取り囲んだりなどした前記事実関係からすれば、その間、局長の応接ないし退席の態度に多少とがめられるべき点があり、そのためその非礼をたしなめ交渉の続行を求めるため、右行動がなされるに至つたものである点に若干しんしやくすべき余地があるとしても、右原告戸祭の行動そのものは、共闘役員等多数の者とともに、局長の退出妨害を意図し、かつその妨害行動に及んだものと認めるのが相当であり、右原告戸祭としてもその責任を問われるのは止むを得ないところである。

なお、以上認定の右原告戸祭の退出妨害の行動は、財務局に勤務する国家公務員として、単なる不謹慎の程度を越え、かなりの程度に職場秩序を乱すものであり、粗暴性を帯びた行為であるから、当時施行の国公法九九条所定の信用失墜行為に当るものというべきである。

(ホ) 前記(ホ)の事実について

前認定のとおり、一審原告香川等は、真鍋経理課長に対して、勤評反対闘争中の組合活動の一環として本件要請を行なつたものであり、その実態は、単なる挨拶程度のものとはいえず、所要時間も約二〇分位で決して短時間ではなく、しかもその際、同課長が右要請をそのまま諒承していたものでもないのである。まして右原告香川は、前記のとおり、融資課所属の職員であるから、同原告に対し管理責任ある上司でもない右経理課長が、平穏に話合いに応じてくれたからといつて、勤務時間中の組合活動で職務放棄をすることが、正当化されるべきいわれがない。右原告香川は、その行為の態様からみて、みだりに職務を放棄したものというほかはない。

(ヘ) 前記(ヘ)の事実について

一審原告戸祭の放送に対し杉本係長が制止したのは、前認定のとおり、前田総務課長がその中止命令を伝達させたものであり、その制止にもかかわらず右原告戸祭はその放送を続けたものである。なお右放送の行為を処分理由とするのは、正当な組合活動に対し、従来の慣行を一方的に否認するものであつて違法、不当であり、信義則にも反する旨一審原告等は主張するのであるが、この主張が理由のないことは、前記(イ)(ⅱ)の項で説示したところと同様である。右放送そのものがその際、内容的にも、時機的にも組合側にとつてある程度必要なものであり、淡々と報告が行なわれたものであつたとしても、前認定の右行為の態様からみて、勤務時間中の組合活動として全く違法性を欠くものとはいえない。従つて右原告戸祭の行為が、みだりに職務を放棄して、放送を行ない、もつて職員の執務を妨害したものとされるのは止むを得ない。

(ト) 前記(ト)の事実について

(ⅰ) 一審原告等は先ず、本件勤務状況報告書の保管行為は、当時施行の国公法九八条五項により禁止された争議行為には該当しない旨を主張する。

一般的に争議行為とは、国公法においても、国家公務員(職員)が、その組織する団体の意思に従つて、当局側の管理意思に反して、集団的に行なう行為(但しいわゆる怠業的行為を除く)であつて、国の業務の正常な運営を阻害するものすべてのものを含むと解するのが相当である。而して、本件勤務状況報告書(以下単に本件報告書ともいう。)についてみれば、前認定のとおり、一審原告等の職員団体である全財組合高松支部の決定に従つて、組合員である多数の第一次評定者が、局長命令に反して、あえて右報告書を官側に提出せず、かつその不提出の状態を確保するため組合においてこれを保管し、その結果として、その提出期限が守られず、四国財務局における右報告書の作成に関する国の業務の正常な運営が阻害されるに至つたものであるから、これが一般論からいつて、争議行為に該当するものであることは明らかである。しかもそれは単なる本件報告書の不提出にはとどまらず、あえてこれを組合側の保管に移すことにより、国(四国財務局)の業務を阻害したものであり、その際その報告書は、殆んど全部がすでに記入済みのものであつたのであるからでその違法性は軽微なものといえない。

ところで国家公務員については国公法九八条に争議行為の禁止規定が存するのであるが、この禁止規定自体が違憲無効であるかどうかにつき当事者間に争いがあるので、この点についてここで判断するが、右規定を直ちに違憲、無効の規定と解すべきでないこことについては、すでに先に、憲法二八条と右争議行為禁止規定の関係について、刑事事件に関してではあるが、最高裁判所が昭和四一年一〇月二六日判決(最高刑裁判集二〇巻、八号、九〇一頁)及び昭和四四年四月二日判決(右同集二三巻、五号、三〇五頁)において判示したところであつて、当裁判所の見解も、本件は民事事件ではあるが、基本的に右判決と立場を同じくし、右国公法の規定は違憲の規定ではないと判断するものである。即ち、これを少し詳論すれば、国家公務員も憲法二八条にいう勤労者であり、憲法二八条が保障する勤労者の団結権及び団体交渉その他の団体行動をする権利(労働基本権)の保障を受けるものである。しかるに右国公法九八条五項は「職員は、政府が代表する使用者としての公衆に対して同盟罷業、怠業その他の争議行為をなし、又は政府の活動能率を低下させる怠業的行為をしてはならない。又何人も、このような違法な行為を企て、又はその遂行を共謀し、そそのかし若しくはあおつてはならない。」と規定している。そして国家公務員の職務には多かれ少なかれ、直接または間接に、公共性が認められるので、その職務の公共性に応じ、国家公務員の労働基本権が、何らかの制約を受けることは当然であるが、しかしもしこの規定を文字どおりに、すべての国家公務員の一切の争議行為を禁止する趣旨と解すべきものとすれば、それは違憲の規定の疑いを免れない。しかし法律の規定は可能な限り、憲法の精神と調和し得るよう、合理的に解釈されるべきものである。而して実定法規によつて労働基本権の制限が定められている場合にも、右見地から、その制限の意味が考察されるべきであり、財産権の保障と並んで労働基本権が保障されている憲法のもとでは、これら両者の間に調和と均衡が保たれるように、実定法規の適切、妥当な法解釈をすべきである。(この点につき鑑定人野村平爾の鑑定結果は採用できない。)その際拠るべき基準としては、労働基本権の制限が必要最少限度に止められるべきこと、国民生活全体の利益の侵害等を避けるため必要止むを得ない場合についてのみ許されるものであること、違反者に対して科せられる不利益が必要な限度を越えないこと、その他のいわゆる四条件がある。

而してこれら諸条件に照らして、具体的な国家公務員の争議行為が、右国公法により禁止せられた争議行為であるかどうかが判断せられるべきであり、即ち争議行為を禁止することによつて保護しようとする法益と、労働基本権を尊重し保障することによつて実現しようとする法益との比較考量により両者を適切に調整する見地から判断がなされるべきである。従つてその際、一方において、当該公務員の職務が帯びる公共性の程度と当該争議行為の目的、手段方法等の態様に注目し、その争議行為により直接、或いは公務の停廃されることを仲介にして間接に、国民全体の利益が害され、国民生活に重大な支障がもたらされるものかどうかを考慮し、他方において当該争議行為が許されることによつて公務員が受ける利益を検討し、この両者の要請を調整する見地に立つて判断が下されるべきこととなる。その結果として、国家公務員の行為が、右国公法の禁止する争議行為に該当し、しかも違法性が強い場合もあり、違法性の比較的弱い場合も認められようし、また、実質的に、禁止された争議行為に該当しないと判断されるべき場合もあり得ることとなるであろう。

右国公法の規定の文言も、以上のような解釈を施すに妨げがなく、かように禁止される争議行為の範囲を限定的に解釈する限り、右規定は、憲法二八条の労働基本権保障の趣旨に反するものでなく、憲法に違反するものではない。

而して以上は、国家公務員の職務の公共性に鑑み、その職務(国家の業務)の正常な運営を確保する要請と国家公務員に対して与えられた労働基本権保障の趣旨との調整をはかる見地から、国家公務員に対する労働基本権の制限が考慮されるべきことを述べたものであり、いわば国家公務員の特殊性に鑑み、特に国家公務員に対しては、一般の私企業の労働者の場合以上に、争議行為として禁止されるものがあり得ることを論じ、さような争議行為が国公法の禁止規定によつて禁止された争議行為に該当するものであることを述べたものである。しかしながら、国公法により禁止された争議行為に該当するものは以上の範囲につきるものではなく、更に、一般私企業の労働者に対しても、現行の労働法の一般法理上で許されない争議行為は、当然国家公務員に対しても許されないものであり、これも右禁止規定により禁止された争議行為に該当するものというべきである。(かように解釈しても右禁止規定が憲法に違反するものとは考えられない。)従つて、具体的争議行為にして、国民生活全体の利益を害し、国民生活に重大な障害をもたらす虞がある等前記の争議行為制限の条件を具備しないものでありさえすれば、その争議行為の目的、手段等の適否は問うまでもなく、すべて当然に許されるべき争議行為に該るとたやすく解すべきものではなく、右一般法理上で、許されない争議行為とされる純然たる政治目的に出た争議行為、暴力等を伴なうとか、その他不法な手段による争議行為などは、私企業の労働者に対しても許されないところであるから、国家公務員にも同様許されない争議行為として、これも禁止の対象となるものというべきである。

なお、以上のような禁止規定に違反する争議行為に対し刑事罰が科せられるべき場合は、その争議行為の違法性が強い場合であり、 「あおり、そそのかし」については更にその行為自体の違法性も強度の場合に限られるべきことは前記最高裁判所の判決の説示するとおりであるが、本件のような民事制裁の懲戒処分については、いずれも、必ずしも刑事罰を科する程度の強い違法性を必要とするものではないと解すべきである。

ところで本件争議行為は、前記のとおり、単なる報告書の不提出にはとどまらず、その不提出行為の実効を確保するため、進んで公文書である報告書を官の意思に反して組合において占有、保管する態様で行なわれたものであつて、この保管行為が不提出という争議行為の手段としてなされたものであることは明らかであるが、これにより、爾後官側の第一次評定者に対する提出の指示、命令も全く徒労に帰することとなるのであり、争議行為の手段としての性格からみれば、この保管行為は、公文書に対する官側の占有を積極的に排除する態様のものであり、とうてい争議行為の方法として正当な手段とはいえず、不法な、許されないものというべきである。従つてさような手段による争議行為は争議行為として適法な範囲を逸脱した違法なものであり、国公法によつて禁止された争議行為に該るというべきである。

なお、昭和三七年度における本件勤評反対闘争は、前認定の事実関係からすれば、直ちに勤評制度の撤廃を要求する趣旨で組織、遂行せられたものではなく、一応この制度を是認しながら、各職場において職員の勤務条件に関する要求をかかげた闘争活動を行ない、この制度を運用、実施面において無力化して行くことを当面の目的としているにとどまるものというべきであるから、これを直ちに政治的目的に出るもの、ないしそれに準ずるものとはいえない。

(ⅱ) 次に一審原告等は、本件報告書の保管行為は、一審被告側の違法不当な合同交渉拒否、それに続く不誠実な交渉態度、これによつて示された当局の組織否認、団結権侵害に対して、止むに止まれず、最少限の組織防衛のためとられた防衛措置であり、交渉決裂の事態のもとで、組合の団結を保持しつつ、当局に対して交渉の再開を求めるための方法としては、他にとるべき方法がないところから止むなくとられた対抗措置であつて、正当な組合活動であり、違法性がない旨を縷々主張するので検討する。

一審被告側当局の本件におけるいわゆる合同交渉拒否の態度が、必ずしも妥当なものとはいえないけれども、しかしだからといつて、ただ一方的にこれを不当として非難することも正当といえず、従来合同交渉の確立した慣行があつたことを前提として一審被告の合同交渉拒否を慣行に反する不当な措置と断定することはできないし、その後勤務状況報告書の提出期日一〇月八日を具体的交渉に入れないまま迎えたことも、必ずしも一審被告側のみの違法、不当な態度に起因するものとは一概にいえないものであることは前記のとおりである。そして前認定の、一〇月八日当日の合同交渉の経過も、交渉決裂の責任が一審原告等側にはなく、一方的に一審被告当局側の不誠実さにあると断定すべき状況にあるとまでは認められないし、また本件報告書の保管行為が、一審原告等主張のように、一審被告側の態度に対する止むを得ない最少限度の組織防衛ないしは唯一の対抗の措置であるとまでいえないものであることはすでに説示したところである。

而して前認定のとおり、本件報告書に関して説得、回収及び保管の行動を決定したのは、全財組合高松支部であるが、右決定及び回収に参加した同支部役員の一審原告上川、同香川、同平尾は「みだりに職務を放棄し」、支部が主催した執行委員会に加わり、右決定に参加し、更に右決定に基づき説得、回収を行なつたものであり、(本件執行委員会に参加するにつき当時、右原告等が、当局側の許可を得ていた事実を認めるに足る証拠はない。)また、地本の役員である一審原告戸祭は、右と同一理由により「みだりに職務を放棄し」、前認定のとお

り、支部役員等とともに多数の第一次評定者を説得等して廻つたものというべきで、一審原告等の行為は、以上で認定した、その目的、態様及び結果からみて、違法なものであることは明らかである。

而して一審原告等四名は、以上の各行動により、それぞれ第一次評定者の勤務状況報告書に関する勤務を妨害したものというべきである。

(ⅲ) 一審原告戸祭の「勤務状況報告書の組合保管」という違法な争議行為を「あおり、そそのかし」た行為について

当時施行の国公法九八条五項後段は「何人も、同項前段で禁止されたいわゆる争議行為等違法な行為を企て、又はその遂行を共謀し、そそのかし、若しくはあおつてはならない。」と規定する。而して一般に、先ず「そそのかす」行為とは、違法行為を実行させる目的をもつて、人に対し、その行為を実行する決意を新たに生じさせるに足りる慫慂行為をすることを意味し(昭和二七年(あ)第五七七九号、昭和二九年四月二七日最高裁第三小法廷判決、最高刑裁判集八巻、四号、五五五頁)、また「あおる」行為とは、違法行為を実行させる目的で文書もしくは図画または言動によつて、他人に対し、その違法行為を実行する決意を生ぜしめるような、またはすでに生じている決意を助長させるような勢のある刺戟を与えることを意味する(昭和三三年(あ)第一四一三号、昭和三七年二月二一日最高裁大法廷判決、最高刑裁判集一六巻二号一〇七頁)ものであり、そのいずれの場合にも、右行為によつてその相手方が現実に影響を受け、実際に新たに実行の決意を生じたかどうか、或いはすでに生じている決意が助長されたかどうか、更にその決意に基づき実行行為がなされたかどうかは問わないが、客観的にみて、その行為自体が違法行為の実行に対し影響を及ぼし、それにより相手方が実行行為に出る危険性があると認められるものであれば足りるものと解される。而してこれを国家公務員についていえば、右国公法九八条五項後段の規定の趣旨とするところは、国の業務の正常な運営を確保するために、国家公務員(職員)に対し、単に違法な争議行為等の実行行為を禁止するにとどまらず、進んでその実行行為の原動力となり、またはこれを誘発する虞れのある行為を直接禁止することにより、違法な争議行為等の発生を未然に防止しようとするにあるから、ここにいう「そそのかし、若しくはあおる」行為とは、事柄を国公法に基づく懲戒処分に関していう限り、「そそのかし、あおる」行為自体の違法性の強弱の程度及びそれが争議行為に対して随伴性のあるものであるかどうかなどの点は、問題とすべきでなく、およそ職員に対して国家業務の正常な運営を阻害する違法な争議行為等をするようにしむける行為であつて、職員がその実行行為に出る危険性があるとめられる行為であれば、一切のものを含むと解すべきである。従つてその手段の如何を問わず、国の事務の正常な遂行を阻害する違法な争議行為等の実行を指図し、慫慂し、また説得はする行為は、客観的にみてそれが争議行為等の実行に影響を及ぼす虞れがあるものと認められる限り、右の「そそのかし、若しくはあおる」行為に該当するものというべきである。従つて、本件において、一審原告戸祭が、高松支部執行委員会が決定した本件報告書の組合保管の方針に従い、この決定事項を組合員に通知するとともに、右組合の決定に従い、官側に提出せず、組合の保管に委ねるよう多数の第一次評定者を説得等して廻り、その結果として多数の右報告書を第一次評定者から回収して組合の保管に移したものであることが前認定のとおりであり、しかもその組合保管の方法による争議行為が前記のとおり違法なものである以上、右説示の「あおり、そそのかし」の解釈に徴すれば、右原告戸祭の行為は国公法九八条五項後段にいう「あおり、そそのかし」行為に該当するものというべきである。

(チ) 前記(チ)の事実について

一審原告等は、同原出戸祭が中央本部からのオルグの沼田委員長の報告に同行したのは、組合役員として当然の行動であり、極めて短時間のことであつて、従来の職場慣行から当然許されていたものであり、当時他に同行者もいたのに右原告戸祭に対してだけ処分を行なうのは不当である旨主張する。

しかし前認定のとおり、右のような勤務時間中の組合活動は、職場慣行として従来容認されていたものではないし、その際杉本係長がその行動を制止したばかりでなく、更に<証拠>によれば、所管の亀井課長も右原告戸祭のあとを追いかけて行き、自席に戻るよう注意をし、その後になつてやつと右原告が同行を中止するに至つた状況が認められるのであるから、その行為の態様、並びに組合運営のための必要最少限の行動ともたやすくは認められない点からして、右原告がみだりに職務を放棄したものとされるのは当然であり、その際、他に同行者がいたからといつて、同原告の責めが免れられるものではない。

(リ) 前記(リ)の事実について

一審原告等は、職場集会については、従前多少の勤務時間内くい込みが慣行として黙認ないし承認されていたし、本件では、事前にその諒解があり、くい込みも極めて短時間であり、その際前田総務課長の中止命令、一審原告香川、同上川が同課長の行動制止の事実もなく、また一審原告等に「積極的参加」に該当する事実もないのみならず、むしろ本件職場集会が前記組合保管の勤評用紙の返還を主たる目的とする集会である点からすれば、当局側も当然くい込みを承認すべき場合であるし、更に争議行為としては、短時間のくい込みで、違法なものといえないから、この点の処分は違法不当である旨主張する。

従前、本件のような昼休みに開かれる職場集会において、勤務時間内にくい込む延長が行なわれた場合、当局の黙認ないし承認がなされた事例があつたことはあるが、それを慣行とまではいえないものであること前認定のとおりであり、また本件職場集会については、当局側が事前に許可を与えた際、特にくい込みを許さない旨注意して許可を与えたものであり、始業のベルの後総務課長が、自らその中止、解散を命じたにもかかわらず、一審原告等はこれに従わずに集会を続行し、一審原告香川、同平尾等が、中止命令を伝えようと赴いた総務課長の入室を阻止し、またはその行動を制止したほか、一審原告戸祭が、右集会において、闘争経過報告を、同原告上川が大会宣言文の朗読を、同原告香川が司会役等をそれぞれ担当したものであることは前認定のとおりであるから、その延長時間が比較的短時間であつたとはいえ、また本件集会が、勤評用紙の返還の件をその会合の目的の一つとするものであつたとしても、その行為の態様からみて、一審原告等の行動は勤務時間中の組合活動として、違法性のないものとはいえず、職務専念義務に違反するものというべきである。しかし、右一審原告等の各行動により、右集会が勤務時間内までくい込んで続行されることとなつたからといつて、そのため直ちに右集会に参加した他の職員の意思を問わずに、右各行動が、同職員等の勤務を妨害したものとなるものとはいえない。(而して本件集会は、もともと休けい時間中の職場集会として行なわれたもので、それがたまたま時間内にくい込んだものであり、行為者である一審原告らに争議行為の意図があつたものとも認められないから、たやすく右集会を争議行為と認めるべきではない。)

(ヌ) 前記(ヌ)、(A)、(B)、(C)の事実について

(ⅰ) 対総務課長交渉についていえば、職員団体等との折衝が同課長の当然の職務内容に属する以上、職員(組合員)の取扱いに関して同課長に対し交渉ないし抗議を行なうこと自体はもとより正当であるが、ただ同課長が、その職責上行なう執務そのものも当然保護されるべきものであるから、交渉等が目的、時機及び方法などその態様において相当を欠き、同課長の執務を不当に妨害する行為であることは許されず、さような交渉等は違法を免れないものというべきである。(なお、交渉が、同課長の方からの申出ではなく、職員団体等からの申出であるというだけで、勤務時間中の交渉に違法性の有無、程度を差別するのは相当でない。)

(ⅱ) 本件においては<証拠>によつて認められる、さ程広くもない総務課長室等において、一審原告等は、同認定のとおり、ほか多数の組合役員等とともに押しかけ、相当長時間にわたつて、執務中の前田総務課長に対し、激しい剣幕でつめより、喰つてかかり、抗議行動を行なつているのであつて、原審における証人前田耕夫の証言によつて、職員団体等との折衝が、当時総務課長の職務であつたことが認められ、また前認定のとおり、交渉手順として職員(組合員)が直接総務課長のところに赴いて面談し、そのまま交渉が行なわれた事例も従前あつたのであるから、本件の各抗議行動は、その手順においてあながち不当なものとはいえず、暴力を伴つた事実も認められないのではあるが、しかしそれは相当長時間にわたるものであり、しかも多衆の勢いを借りた、かなり粗暴な抗議のやり方であつたことが前認定の状況から推測できるところなので、殆んど単身の総務課長に対する抗議の方法としては著しく妥当を欠くものであり、一審原告等主張の各抗議の動機、目的の点を考慮してもたやすく違法性を欠くものとはいえない。

なお(A)の事実に関し、<証拠>に徴し、前田総務課長は異議なく話合いに応じたものとは認められないし、

(B)の事実につき、いわゆる非行調査に関してその取調方法などの違法、不当を一審原告等は主張するのであるが、先ず、行政庁であつても、その所管事務に関する限り、一定の範囲で、相当な方法により、事実調査を行なう権限があることはむしろ当然であり、本件において行なわれた事実調査(いわゆる非行調査)は、財務局所属の職員の執務状況に関する調査と認められるべきものであるから、当然その権限内の事項に属するものといえるし、次に、その取調方法などの点に関し一審原告等の主張にそう<証拠>はたやすく採用できないし、他に一審原告等主張の取調方法などにおける違法、不当の事実を認めるに足る証拠がなく、更に、総務課長の取扱中の業務そのものが抗議の対象であるからといつて、総務課長がその職責に基づき実施中の執務を、著しく不当な方法による抗議等で妨害することまで許されるべき筋合いはない。

(C)の事実に関し、前認定の現場の状況並びに<証拠>に徴し、前田総務課長が全く異議なしにこの話合いに応じたものとはとうていいえないし、また、一審原告戸祭が、所管課長の許可を受けて離席したとの事実は、これを認めるに足る証拠がない<証拠判断省略>。

そして(C)の事実中、一審原告平尾がこの抗議に参加した点に関しては<証拠>によれば、一審原告戸祭から抗議を受けて右総務課長が、しぶしぶながらではあるが、右原告平尾の参加も止むを得ない旨の電話連絡をとつた結果、同原告は、ともかくも、所管の塹江課長から離席の許可を与えられたので、これに参加することとなつたものであり、特段の事情も認められないので、この許可により公務の遂行に格別の支障はなかつたものと推測されるので、右原告平尾はみだりに職務を放棄したことにはならないものである。

従つて一審原告等は、みだりに職務を放棄し(但し一審原告平尾につき右(C)の場合を除く)、前田総務課長の勤務を妨害したものというべきである。

(ル) 前記(ル)の事実について

前認定のとおり、一審原告平尾は、階上事務室で、携帯拡声器を用いて、無許可の抗議集会に参加を呼びかけたものであるが、これはもとより組合活動としてなされたものであり、またその放送時刻の午後〇時一〇分頃がまだ勤務時間中であることも明らかであるから、前認定のように、当時四国財務局においては、勤務時間が昼食時間等の点で多少厳格でない点があつたので、その時刻頃に執務中の職員は殆んどいなかつたとしても、また昼休みに集会を開くこと自体に違法な点はないとしても、当局がその権限に基づき中庭を用いる集会に許可を与えず、(この点につき権限の濫用を認めるに足る証拠がない。)しかもその旨を庁内備え付けマイクで放送までしたこと前認定のとおりであるにかかわらず、あえてその後において、その集会に参加するよう呼びかけた本件の放送は、その目的、態様からみて、とうてい違法性を欠くものということができない。なお、従前の慣行を主張する一審原告等の主張が理由がないものであることは、すでに前記(イ)で説示したところと同様である。右原告平尾の行為は、みだりに職務を放棄したものというべきである。

② 以上において、懲戒事由となるべき一審原告等の違法行為につき、各人別該当法条を挙げれば次のとおりである。

(A) 一審原告戸祭の違法行為の該当法条

右原告戸祭は、

① 昭和三七年一〇月三日午前一〇時三〇分頃より午前一一時三〇分頃までの間四国財務局庁舎内食堂において、勤務評定に関して高松支部が主催した第一次評定者の会合にみだりに参加し、職務を放棄した〔当時施行の国公法(以下同様とする)一〇一条一項、職員団体に関する職員の行為(昭和二四、五、九人事院規則―以下人規という―一四―一)三項前段該当〕

② 昭和三七年一〇月五日同局局長室において午前一〇時三〇分頃より午前一一時三〇分頃までの間に行なわれた同局局長と共闘役員との会見にみだりに職務を放棄して参加し(国公法一〇一条一項および人規一四―一、三項前段該当)、同日午前一一時三〇分過ぎ頃同局局長が退出しようとした時、同局庁舎内において、共闘役員等とともに同局局長を追いかけ、とり囲みその前方に立ちふさがり、その退出を妨害した(国公法九九条、一〇一条、人規一四―一、三項前段該当)。

③ 昭和三七年一〇月五日午後三時頃みだりに職務を放棄し、同日午前中の同局局長と共闘役員との会談およびその後の状況について、執務中の職員に対し、同局総務課長の中止要求に応ずることなく、携帯拡声器により放送を行ない職員の職務を妨害した(国公法一〇一条一項、人規一四―一、三項前、後段該当)。

④ 昭和三七年一〇月八日、同局局長の業務命令により、同日午後五時までに勤務状況報告書を第一次評定者が第二次評定者に提出することになつていたのを、同日午後四時頃から午後五時頃までの間みだりに職務を放棄し、組合側に提出するよう第一次評定者をあおり、そそのかし、第一次評定者の勤務を妨害した(国公法一〇一条一項、九八条五項後段、人規一四―一、三項前、後段該当)。

⑤ 昭和三七年一〇月九日午前一〇時頃同局階上事務室において、沼田委員長が前日勤務状況報告書を組合に保管した経過について、執務中の職員に経過報告を行なつた際、勤務時間中であるため、同局総務課長の制止があつたにもかかわらず、沼田委員長に同行し職務を放棄した(国公法一〇一条一項、人規一四―一、三項前段該当)。

⑥ 昭和三七年一〇月九日同局階下事務室において、午後〇時三〇分頃より午後一時二七分頃までの間、勤務時間にくい込む職場集会に積極的に参加した(国公法一〇一条一項、人規一四―一、三項前段該当)。

⑦ 昭和三七年一〇月一〇日午後二時頃から午後二時三〇分頃までの間、みだりに職務を放棄し、同局総務課長に勤評反対闘争の結果、措置等について、抗議要求を行ない、同課長の勤務を妨害した(国公法一〇一条一項、人規一四―一、三項前、後段該当)。

⑧ 昭和三七年一〇月一〇日午後四時三〇分頃から午後五時頃までの間みだりに職務を放棄し、同局総務課長に非行調査に組合員を立会わすよう抗議、要求を行ない、同課長の勤務を妨害害した(国公法一〇一条一項、人規一四―一、三項前、後段該当)。

⑨ 昭和三七年一〇月一二日午後三時頃から午後四時三〇分頃までの間、みだりに職務を放棄し、同局総務課長に集会不許可、離席問題等について抗議を行ない、同課長の勤務を妨害した(国公法一〇一条一項、人規一四―一、三項前、後段該当)。

(B) 一審原告上川の違法行為の該当法条

右原告上川は、

① 昭和三七年一〇月二日午後四時五分頃、みだりに職務を放棄し、四国財務局階上、階下事務室において、携帯拡声器で第一次評定者に対し、勤務状況報告書を記入しないことを要請する趣旨の放送を行ない、勤務中の職員の勤務を妨害した(国公法一〇一条一項、人規一一四―一、三項前、後段該当)。

② 昭和三七年一〇月三日午前一〇時三〇分頃より午前一一時三〇分頃までの間みだりに職務を放棄し、同局食堂において、勤務評定に関して高松支部が主催した第一次評定者の会合に参加した(国公法一〇一条一項、人規一四―一、三項前段該当)。

③ 昭和三七年一〇月八日午後四時頃みだりに職務を放棄し、高松支部が同支部組合事務所において主催した執行委員会に参加し、同局局長の業務命令で定まつていた第一次評定者の提出期限を延伸し、勤務状況報告書を組合が保管する決定に参画し(国公法九八条五項後段、一〇一条一項、人規一四―一、三項前段該当)、同委員会終了後同日午後五時頃までこの実行に加担し、第一次評定者の勤務を妨害した(国公法九八条五項前段、一〇一条一項、人規一四―一、三項前、後段該当)。

④ 昭和三七年一〇月九日同局階下事務室において、午後〇時三〇分頃より午後一時二七分頃までの間、勤務時間にくい込む職場集会に積極的に参加した(国公法一〇一条一項、人規一四―一、三項前段該当)。

⑤ 昭和三七年一〇月一〇日午後二時頃より午後二時三〇分頃までの間、みだりに職務を放棄し、同局総務課長に勤評反対闘争の結果、措置等について抗議、要求を行ない、同課長の勤務を妨害した(国公法一〇一条一項、人規一四―一、三項前、後段該当)。

⑥ 昭和三七年一〇月一〇日午後四時三〇分頃から午後五時頃までの間、みだりに職務を放棄し、同局総務課長に非行調査に組合員を立会わすよう抗議、要求を行ない、同課長の勤務を妨害した(国公法一〇一条一項、人規一四―一、三項前、後段該当)。

⑦ 昭和三七年一〇月一二日午後三時頃から午後四時三〇分頃までの間、みだりに職務を放棄し、同局総務課長に集会不許可、離席問題等について抗議を行ない、同課長の勤務を妨害した(国公法一〇一条一項、人規一四―一、三項前、後段該当)。

(C) 一審原告香川の違法行為の該当法条

右原告香川は、

① 昭和三七年一〇月三日午前一〇時三〇分頃より午前一一時三〇分頃までの間四国財務局食堂において、勤務評定に関して高松支部が主催した第一次評定者の会合にみだりに参加し職務を放棄した(国公法一〇一条一項、人規一四―一、三項前段該当)。

② 昭和三七年一〇月五日同局々長室において、午前一〇時三〇分頃より午前一一時三〇分頃までの間に行なわれた、同局々長と共闘役員との会見にみだりに職務を放棄して参加した(国公法一〇一条一項、人規一四―一、三項前段該当)。

③ 昭和三七年一〇月五日午後一時三〇分頃みだりに職務を放棄し、同局経理課事務室において、経理課長に対し、勤務状況報告書の提出時期に関して組合方針に従うよう要請した(国公法一〇一条一項、人規一四―一、三項前段該当)。

④ 昭和三七年一〇月八日午後四時頃みだりに職務を放棄し、高松支部が同支部組合事務所において主催した執行委員会に参加し、同局局長の業務命令で定まつていた第一次評定者の提出期限を延伸し、前記報告書を組合が保管する決定に参画し(国公法九八条五項後段、一〇一条一項、人規一四―一、三項前段該当)で同委員会終了後同日午後五時頃までこの実行に加担し、第一次評定者の勤務を妨害した(国公法九八条五項前段、一〇一条一項、人規一四―一、三項前、後段該当)。

⑤ 昭和三七年一〇月九日同局階下事務室において、午後〇時三〇分頃より午後一時二七分頃までの間、勤務時間にくい込む職場集会に積極的に参加した(国公法一〇一条一項、人規一四―一、三項前段該当)。

⑥ 昭和三七年一〇月一〇日午後二時頃から午後二時三〇分頃までの間、みだりに職務を放棄し、同局総務課長に勤評反対闘争の結果、措置について抗議、要求を行ない、同課長の勤務を妨害した(国公法一〇一条一項、人規一四―一、三項前、後段該当)。

⑦ 昭和三七年一〇月一〇日午後四時三〇分頃から午後五時頃までの間、みだりに職務を放棄し、同局総務課長に、非行調査に組合員を立会わすよう抗議、要求を行ない、同課長の勤務を妨害した(国公法一〇一条一項、人規一四―一、三項前、後段該当)。

⑧ 昭和三七年一〇月一二日午後三時頃から午後四時三〇分頃までの間、みだりに職務を放棄し、同局総務課長に集会不許可、離席問題等について抗議を行ない、同課長の勤務を妨害した(国公法一〇一条一項、人規一四―一、三項前、後段該当)。

(D) 一審原告平尾の違法行為の該当法条

右原告平尾は、

① 昭和三七年一〇月三日午前一〇時三〇分頃より午前一一時三〇分頃までの間四国財務局庁舎食堂において、勤務評定に関して高松支部が主催した第一次評定者の会合にみだりに参加し、職務を放棄した(国公法一〇一条一項、人規一四―一、三項前段該当)。

② 昭和三七年一〇月八日午後四時頃みだりに職務を放棄し、高松支部が同支部組合事務所において主催した執行委員会に参加し、同局局長の業務命令で定まつていた第一次評定者の提出期限を延伸し、前記報告書を組合が保管する決定に参画し(国公法九八条五項後段、一〇一条一項、人規一四―一、三項前段該当)、同委員会終了後午後五時頃までこの実行に加担し、第一次評定者の勤務を妨害した(国公法九八条五項前段、一〇一条一項、人規一四―一、三項前、後段該当)。

③ 昭和三七年一〇月九日同局階下事務室において、午後〇時三〇分頃より午後一時二七分頃までの間、勤務時間にくい込む職場集会に積極的に参加した(国公法一〇一条一項、人規一四―一、三項前段該当)。

④ 昭和三七年一〇月一〇日午後二時頃から午後二時三〇分頃までの間みだりに職務を放棄し、同局総務課長に勤評反対闘争の結果、措置等について、抗議、要求を行ない、同課長の勤務を妨害した(国公法一〇一条一項、人規一四―一、三項前、後段該当)。

⑤ 昭和三七年一〇月一〇日午後四時三〇分頃から午後五時頃までの間、みだりに職務を放棄し、同局総務課長に非行調査に組合員を立会わすよう抗議、要求を行ない、同課長の勤務を妨害した(国公法一〇一条一項、人規一四―一、三項前、後段該当)。

⑥ 昭和三七年一〇月一二日午後〇時一〇分頃、みだりに職務を放棄し、同局内庭において共闘が開催しようとした無許可の抗議集会に、高松支部組合員が参加するよう携帯拡声器で呼びかけた(国公法一〇一条一項、人規一四―一、三項前段該当)。

⑦ 昭和三七年一〇月一二日午後三時頃から午後四時三〇分頃までの間、同局総務課長に対し、集会不許可、離席問題等について抗議を行ない、同課長の勤務を妨害した(国公法一〇一条一項、人規一四―一、三項後段該当)。

以上のとおりである。

③ 結論

以上のように、一審原告等はいずれも、四国財務局における昭和三七年度の勤評反対闘争として、法に定めた勤務評定制度に関して、前記のような勤務状況報告書の組合保管という方法の争議行為を頂点とし、その前後にくり返された一連の違法な組合活動をなし、もつて国家業務の正常な運営を阻害したものであつて、以上において違法とされた同原告等の行為はいずれも当時施行の国公法八二条一号の「この法律又は人事院規則に違反した場合」に該当すると同時に、同条二号の「職務上の義務に違反し、または職務を怠つた場合」にも該当するものというべきである。

第四当時施行の国公法九八条の規定が違憲で無効であるかどうかについて

一審被告が、一審原告等の行為につき当時施行の国公法九八条五項の争議行為等に該当するものがあるとして本件処分を行なつたものであることは、当事者間に争いがないところであるが、一審原告等は、右規定が憲法二八条の規定に反し、違憲、無効である旨を縷々主張する。

しかし前記説示のとおり(第三(三)(2)①(ト)(ⅰ)の項)、当裁判所は、右規定は違憲の規定ではないと判断するものであり、この点の一審原告等の主張は理由がない。

従つて本件処分が違憲の措置である旨の主張はもとより失当であり、また本件処分が不当労働行為であつて憲法二八条に違反する旨旨の主張については、その主張の趣旨にそう<証拠>は採用できないし、他にこの点の一審原告等主張事実を認めるに足る証拠がないので、この主張もまた採用できないものである。

第五本件処分は懲戒権の濫用か否かについて判断する。

一審原告等は懲戒権の濫用である旨縷々主張する。

当時施行の国公法八二条は、職員が前記(第三の末尾)の同条一号または二号等の一つに該当する場合、これに対し懲戒処分として免職、停職、減給または戒告の処分をすることができる旨を規定する。右懲戒処分の軽重の順位は、免職が最も重く、以下右記載の順序で戒告が最も軽い処分であると解する。ところで右処分に関して、如何なる場合に如何なる種類の懲戒処分をなすべきかを明示する規定はなく、その選択は専ら懲戒権者の合理的裁量に委ねられたものと解される。ところでその裁量は、前記憲法二八条と国公法の関係についての説示に徴し、およそ職員に対する不利益処分は、もとより、懲戒処分をも含めて、必要な限度を越えない合理的な範囲内のものであることが要請されるのであるから、社会通念に照らして、客観的に妥当な裁量でなければならないのであつて、懲戒処分の種類、程度は当然に、一方において職員のなした違反行為の態様、程度に応じるものであることを要するとともに、他方職員の身分を保障する国公法の趣旨に反しないものであることを要する。ことに懲戒免職の処分は、一般労使関係の現状からすれば、免職された職員の多くに対し、かなり不利な条件での再就職を余儀なくさせ、場合によつては、生活の基盤を全く失わせる結果にもなりかねない危険が大である事態に鑑みれば、比較的軽い違反行為に対して、結果の重大な免職処分を行なうが如きは、客観的妥当性を欠き、不必要かつ不合理な処分であつて、裁量権の範囲を逸脱するものであり、懲戒権の濫用として違法を免れないものというべきである。

本件についてみるに、以上において懲戒事由となるべき一審原告等の行為は、前認定の事実関係に徴して、いずれも昭和三七年度における全財組合の勤評反対闘争に際し、その組合員である一審原告等が職場とする、四国財務局においてなされた一連の違法行為であるが、右反対闘争の活動は、右職場において、同年九月下旬頃から翌一〇月中旬頃までの間の一〇数日間にわたつて、断続的に行なわれた行為であり、これによりその間、相当職場の平穏が害され、税序が乱されたこと、組合側の要求が根本的には勤務評定制度の廃止に指向されたオールA・公開等という現行の法規のもとでは勤評実施庁たる財務局にとつて許されない要求を行なうものであること等、その情状は必ずしも軽いものとはいえない。しかし他方その各行為の態様、ことに各違法行為の時間はいずれも比較的短時間のものに過ぎないこと、その手段方法の点でも明らかな暴力等の行使がなされた事実は認められないこと、とくにその違法とされる行為中最も違法性が強いものと考えられる勤務状況報告書の組合保管による争議行為についてみても、この保管行為は、前認定のように切迫した状況のもとでなされた行為で、しかも第一次評定者の申出がそのきつかけをなしたものであり、その際保管された報告書は公文書であるが、いずれも封をした袋に収めた状態で回収、保管がなされたものであることが、<証拠>を綜合して明らかに認められるところであるし、また四国財務局の取扱う国の業務は、<証拠>によれば、国の予算の編成資料の蒐集、共済組合の監査、金融経済情勢の調査、証券業者の検査、監督、公認会計士の登録事務、公共団体その他の組合に対する資金の貸付け並びに管理事務及び国有財産の処分管理事務等を主な職務事項とするものであつて、本件の勤務状況報告書の作成業務は、同財務局所属の職員の勤務関係のもので、前記の業務とは直接かかわりのない、いわば単なる内部的な事務というべきもので、その業務の阻害が直ちに、国民生活全体の利益等を害するに至る業務の停廃を招くとは認められないものであり、なお、<証拠>によつて、本件報告書は、組合から、第一次評定者に、一〇月九日午後一時半頃までに返還され、第一次評定者からは、遅くとも同日午後六時頃までに第二次評定者に提出されていることが認められるので、前認定に徴して、本件報告書の提出遅延はせいぜい丸一日間位にとどまるものであることが明らかであることなどの点に鑑みると、前記懲戒処分の基準からみて、一審原告等に対する本件懲戒免職の処分は、必要の限度を越えて過酷に過ぎ、妥当性を欠くものというべきである。のみならず、本件勤評反対闘争に関し、他の職員、ことに訴外全財組合中央執行委員長沼田実、同高松支部長大塚文男等の、前認定のほか、本件全証拠によつてうかがえる同人等の具体的な行動につき、同人等に対してなされた懲戒処分(前者は停職三ケ月、後者は停職九ケ月であることが<証拠>によつて明らかである。)と比較して甚だしく重きに過ぎるものであり、職員に対する公正の原則ないしは平等取扱いの原則にも違反するものであるから、その余の争点につき判断するまでもなく、以上ですでに、本件懲戒免職処分は、懲戒権の濫用として違法といいうべきである。

第六当時施行の国公法九八条六項に関する一審被告の主張について判断する。

一審被告は、右規定を根拠に、懲戒処分の取消請求並びに裁量に関する判断が許されない旨を主張するのであるが、以上のように、禁止された争議行為が認定されたからといつて、一般に、これに対する処分ないしその裁量に関して、違法の存在がそのまま放置されてよい筋合いはないのであるし、まして国民に対し、一切の法律上の争訟につき裁判所の裁判を受ける権利が憲法三二条及び裁判所法三条によつて保障されている以上、処分ないし裁量に関する違法の主張並びにこれに対する裁判所の判断が右国公法の規定によつてたやすく禁止されるべきいわれはない。右規定は単に、国家公務員に対し国公法上認められた分限上の身分保障につき、違法な争議行為を行なつた国家公務員が、その保障を失い、これを国に対し主張することができなくなるとの趣旨のものにとどまると解すべきである。

第七

以上の次第で、一審原告等に対する前示国公法八二条に基づく本件懲戒免職の処分はすべて違法であつて取消を免れないものである。しかるに、一審原告平尾に対し右処分を取消しただけで、その余の一審原告三名の本訴請求を棄却した原判決は失当というべきである。

よつて、一審原告戸祭、同上川、同香川の本件各控訴は理由があるので、民訴法三八六条により、原判決中同原告等に関する部分を取消し、同原告等の本訴請求を正当として認容することとするが、一審被告の本件控訴は理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき同法九六条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(合田得太郎 谷本益繁 林義一)

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